こんにちは。今年もあとわずかですね。

 この1年を振り返って、離婚案件ではやっぱり財産的な問題が多かったなと思います。人はお金さえあれば、とりあえず生きていける、と考えるからでしょうか。

 さて、離婚の際に、夫婦が婚姻中に築いた財産については、財産分与の申立てができることはご存知かと思います。通常、離婚紛争の渦中にある配偶者が財産分与を申し立てる場合は、相手方に対して財産分与を求めるのであって、自ら「財産分与をしてあげます。」と言って財産分与を申し立てることはしません。

 しかし、離婚を申し立てた配偶者(しかも自ら不貞行為をして別居していた有責配偶者)が、予備的にですが1億5000万円を上限として、自ら財産分与してあげると言って離婚を申し立てた事案があります(大阪高裁平成4年5月26日判決)。

 1億5000万円と言えば、かなりの大金ですよね。たしかに、「1億5000万円やるから離婚してくれ。」と言われれば、離婚してもいいかな、と考えてしまいそうです。

 しかし、この事案の相手方は、そんな甘くなかったようです。この相手方は、そもそも有責配偶者からの離婚訴訟申立てが許されないとして離婚すること自体を否定し、財産分与の申立てをしていませんでした。

 判決は、

① 法律上、財産分与を請求する者からの財産分与申立てのみが予定されていること
② 有責配偶者からの離婚請求を許すか否かと財産分与は別個の問題であること
③ 有責配偶者から財産分与を申し立てても、有責配偶者が自身の財産関係について積極的に主張立証することが期待できないこと

などを理由として、離婚の申立人からの財産分与請求を認めませんでした。

 たしかに、いくら1億5000万円でも、不貞行為をされたという傷は癒えるものではありません。この事案の相手方がそもそも財産分与を請求していなかったということからも、不貞行為とそれによる20年にもわたる別居はお金で解決できるような生易しい傷ではなかったのだろうと推測できます。

 お金を出されても離婚しない、というのは、不貞行為をした上に手切れ金さえ渡せば別れられると安直に考えている有責配偶者に対する最大のペナルティかもしれません。