今回は、離婚、離縁、婚姻無効・取消等の人事訴訟について、知っておいて損はない知識などをご紹介してみようと思います。
以前にも触れましたが、調停の場合は、管轄裁判所は、申立人ではなく、相手方の住所地の家庭裁判所となりますが(家事審判規則129条1項)、調停の次の段階の訴訟については、当事者双方の住所地の家庭裁判所となっています(人事訴訟法4条1項、民事訴訟法4条2項)。
もっとも、訴える側の原告の住所地を管轄とすると、当事者間の公平を害するような場合、被告の住所地で審理すべきという考え方があります。したがって、例えば、夫が浮気をして勝手に家を出て行ってしまい、遠くに愛人と住んでいるが、調停は上記のごとく、相手方の住所地となるため、早々に不調にさせ、夫が自分の住所地の裁判所に訴訟提起したような場合、妻の住所地の裁判所に移送されうるわけです(人事訴訟法7条)。
なお、全く管轄のない裁判所であっても、調停の経過や当事者の意見等を考慮して、特に必要と認めれば、その裁判所で審理されることもあります(人事訴訟法6条)。
また、平成16年の法改正によって、離婚等人事に関する訴訟についても、家庭裁判所の管轄となりました。改正前は、訴訟が地方裁判所の管轄であり、調停が家庭裁判所であったため、混乱を招くといった批判がありました。
ちなみに、不倫相手に対する慰謝料請求の訴えは、地方裁判所の管轄です。もっとも、離婚請求を不倫相手に対する慰謝料請求と併合して訴訟提起する場合、家庭裁判所に対して行うことができ(人事訴訟法17条1項)。また、後から離婚訴訟を提起したときでも、既に係属している不倫相手への慰謝料請求事件が移送されてくることがあります(人事訴訟法8条1項)。
次に、人事訴訟については、訴額の扱い上、単なる離婚の訴えであれば、非財産的請求となるので、一律160万円の訴え提起と同様の印紙代で足ります(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。
ただ、離婚の訴えに、離婚慰謝料、財産分与の請求や年金分割といった附帯処分を申し立てた場合(人事訴訟法32条)、離婚慰謝料請求額と比較して、その額が160万円より多額となるなら、慰謝料請求額が訴額となります(民事訴訟費用等に関する法律4条3項)。
財産分与請求については、請求額に関わらず、一律1200円の印紙を貼ることになります(民事訴訟費用に関する法律別表第一第15の2項)。なお、訴え提起が調停不成立から2週間以内であれば(家事審判法26条2項)、調停時に納めた印紙代を差し引いてもらえます(民事訴訟費用等に関する法律5条1項)。
次に、調停前置主義との関係で、調停を経ない訴えは、裁判所が調停に付すのが適当でないと判断しない限り(家事審判法18条2項ただし書)、調停に付されるのが原則です(同条同項本文)。そして、一度調停を挟めば、たとえその調停が取り下げられた場合であっても、当事者間で話し合った上での取り下げであれば、調停前置と認められます。
他方、調停を行えば、その調停からどれだけ長く時間が経過しても、調停前置の訴え提起と認められるわけではありません。調停から相当期間経過していると、事情が変わっている可能性があり、当該事情において既に話し合いがなされたとはいえなくなるからです。