皆様、こんにちは。

 これまで離婚に関する手続や論点をお話ししてきました。

 しかしながら、他方で、離婚したくない、夫婦としてやり直したいという方に対する手続を裁判所は用意しているのでしょうか?

夫婦関係をやり直すために同居を求めた判例の紹介

夫婦関係円満調停の申し立て

 (1)別居してしまった夫婦の一方がやり直しを求めて、夫婦関係円満調停を申し立てることができます。端的にいえば夫婦の同居を求めることになります。

 法律上、夫婦は同居する義務を負っています(民法752条参照)。この「同居」は住まいを同じくして夫婦共同生活をしていくことを指します。

 単に同居を拒んでいることを同居義務違反とするのではなく、夫婦関係の実質及び婚姻共同生活の維持向上という目的等に照らして同居拒否の正当事由を検討し、別居の止むなきに至らしめた原因が同居請求者にある場合、同居請求者が別居につき責任がなくとも、同居が客観的に不可能な場合、合理的な夫婦共同生活の必要から一時的に別居した場合、婚姻関係が破綻し、夫婦たるの実を失っているような場合には、別居していても同居義務に違反していないとされる場合があります(大阪高裁昭和62年11月19日決定)。

 実際の事件では、出産のために妻が実家に帰って別居生活となったものの、出産後も夫の下へ帰ってこなかったという事案で、裁判所は妻の実父と夫の不仲が婚姻関係に悪影響を及ぼしているかもしれないけれども、夫婦の実を失ったとはいえず、同居拒否を認めるだけの正当事由はないとの決定を下されたことがありました(前掲大阪高裁決定)。

 この事件では、出産目的の別居は出産後に同居を再開することを前提とした別居にすぎず、親族間の不仲では客観的に夫婦間の関係回復の余地がないと認めるための事情としては遠いと判断されたのでしょう。

夫婦間不仲の認定

 (2)しかしながら、夫婦間の不仲が認定されると、同居義務の履行に消極的な審判(抗告審における高裁での決定)が出る可能性は高まります。

 原審判では夫の不貞行為によって別居が開始されるも別居期間は1年数ヶ月程度にとどまり、妻が同居再開を望んで審判の申立てをしたことから、夫婦間の同居が命じられた事件がありました。

 ところが、抗告審では、従前から妻が夫に対して不倫を責め立てて激しい口論になっており、妻は婚姻関係の継続は困難であると思っていたこと、夫は今後も同じように口論が繰り返されるのではないかと思っていたことから、同居を再開しても夫婦間の愛情と信頼関係の回復を期待するどころか、かえってお互いの人格や尊厳を損なう結果となる可能性が高いと考えて、同居を求めるべきではないとの判断の下、裁判所は結論を申立て却下に変更しました(大阪高裁平成21年8月13日決定)。

同居請求権の濫用と評価される可能性

 (3)古い事例ですが、夫から暴力を受けた妻が実家に帰る形で別居を開始したところ、原審判では夫による同居の申立てを認めたものの、抗告審では妻から「夫は同居を再開しても以前と同じ態度となる」という趣旨の供述が認められ、暴力的な暴力を振るった夫が同居を求めることは同居請求権の濫用であるとの評価の下、家庭裁判所に差戻しとなりました。

夫婦の同居義務

 夫婦の同居義務は法律上認められていますが、これを他の財産的義務のように強制執行まで認められてしまうと、本人の意思に反して一方配偶者の居所を固定することになります。また、裁判所が他方配偶者との同居を無理矢理実

 現する手段がそもそも考えがたいことからも、同居義務の強制履行は認められていません。

 このため、同居を命じる審判を無視しても具体的な不利益が発生することはなく、従前に夫婦間の不仲が進行していれば上記の裁判例と同様に同居を命じられる可能性も減少することから、同居を望む側としてはあまり期待の持てない手続といえます。

 逆にいえば、別居を開始した配偶者は少なからず離婚を希望するようになると思います。同居について心情的な動機がなく単に経済的に困るというのであれば、相手方に婚姻費用の分担を求めたり、離婚に対して消極的な態度を示しながら離婚条件をつり上げていく方が、配偶者との関係は壊れますが、新たな生活に向けてという意味では建設的だと思われます。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。