秋の香りが漂う今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

 さて、今日は、夫婦が自宅土地建物を持っている場合、その自宅土地建物についてどのような財産分与が考えられるか、についてお話ししようと思います。

 夫婦が離婚しようとする時、まず考えることの一つが、離婚後の住処はどうしよう、ということではないでしょうか。これはかなり切実な問題ですよね。多少お金がなくとも、住む場所さえ確保されていれば、生きていけるのですから。私が担当している案件でも、住む場所が確保できないから、簡単には離婚したくない、というものが、数件あります。各人の希望は様々ですが、一つは、①夫名義の家からはとっとと出てやりたい、でも引っ越しやら何やらで費用がかかるから、その分慰謝料名目で払って欲しい、というもの。もう一つは、②夫名義又は夫婦共有名義の自宅土地建物に子どもと一緒に住まわせてほしい、というものです。

 ②のケースで、夫名義又は夫婦共有名義の自宅土地建物を妻に単独使用させる(夫の使用を排除する、という意味であって、妻側の子どもも妻と同居し使用します。)ためには、いろいろと決めておかなければならない事があります。

 まず、自宅土地建物が共有の場合、共有のままにするか、どちらかの単独所有にするか。もし妻が単独所有できることになれば、通常、妻は自宅土地建物を単独使用できることになります。

 これに対し、自宅土地建物を夫が単独所有する場合や、夫婦の共有のままという場合、妻は当然には自宅土地建物を単独使用することはできません。そこで、妻が単独使用する場合、どういう法律的根拠で使用するかを離婚前に予め決めておく必要があります。例えば、夫から妻への賃貸借(妻が夫に賃料を支払う)、夫から妻への使用貸借(妻が夫に賃料を支払わない、つまり無償)などがあります。

 次に問題となるのが、自宅土地建物の住宅ローン残債務のことです。通常、

財産分与時の自宅土地建物の価値-住宅ローン残債務
=財産分与の対象となる自宅土地建物の価値

 となります。最近の不況で不動産価格は下がりっぱなしですから、たいていのケースはオーバーローン状態(価値ゼロ)です。ここで、オーバーローン状態の自宅土地建物は、財産分与の対象とはならないの?と一瞬疑問に思うかもしれません。

 オーバーローンになっていた自宅マンションを夫婦が共有していた離婚事件で、こんな裁判例があるので紹介しておきます。

名古屋高等裁判所平成18年5月31日決定

 妻の持分6分の1、夫の持分6分の5のオーバーローンの自宅マンションについて、妻が夫に自分の持ち分を譲渡し、夫は妻に対し、第一子が成人するまで、自宅マンションの使用貸借を認める。持分譲渡の登記は、使用貸借権の終期(第一子が成人したとき)経過後に行う。

 その他にある財産(夫の印税収入、預金等)も分割する。

 この決定の価値は、オーバーローンの不動産でも、財産分与の対象として考えられるとしたところです。これは、財産分与には夫婦の財産の清算の意味のみではなく、離婚後の扶養という意味もあり、その二つの意味を組み合わせたためであると考えられています。つまり、オーバーローンだから分与できる財産はない、と切り捨てるのではなく、妻の離婚後の生活のためには自宅マンションの使用貸借権を財産分与として認めるべき、ということです。