前回は、親権についての基本的な考え方や、両親が婚姻している場合とそうでない場合の親権の定め方などをお話ししました。
(前回の記事はこちら:親権の指定・変更1)
今回は、親権の指定・変更を具体的には、どのような要素によって判断し、決定していくのかを中心とした話をしようと思います。
親権者を定める際の判断要素としては、親側の事情に関するものと子側の事情に関するものがあります。
親側の判断要素には、
1)意欲、性格、愛情等の精神的要因
2)身体の健康状態という肉体的要因
3)生活能力という経済的要因
4)居住・教育状態という環境的要因が考えられます。
他方、子側の判断要素としては、
1)子の意思・要望等の精神的要因
2)子の年齢、健康状態等の肉体的要因
3)兄弟姉妹の有無、監護状況の継続性という環境的要因などを挙げることができます。
ここで、親側の意思・性格的要因として、親権者が一方に指定された後に、非親権者から子との面接交渉の要請が出された場合、これに応ずるか否かという面接交渉寛容性重視の原則というものがあります。これは、一方が面接交渉に対して非常に寛容であるのに、他方が断固拒否する態度を明確にしているようなとき、できるだけ双方の親と接していった方が子の福祉に資するような事案であれば、後者が不利に働くことを意味します。
なお、親側の判断要素の中には、経済力もたしかに含まれてはいますが、副次的要素にすぎません。経済面で優位する方が親権の決定において有利であるとすれば、殆どの場合、父親が親権をとってしまうという現状実務とは正反対の結果となるはずです。もちろん経済的側面が子の福祉に影響がないわけではありません。しかし、経済面は養育費で調整するべきであり、親権者をいずれにするかの場面では決定的要素ではないとするのが大勢の考え方のようです。この点を、旦那より断然経済力が劣るから親権はとれないと誤解していたり、そのように一方的に夫から吹き込まれて、これを信じ込んでいる奥さんが結構いますので注意が必要です。
また、子の意思・要望という判断要素は、子が15歳以上になっていれば、その意見聴取をしなければ親権を決定できません(家事審判規則70条・54条)。子の年齢が15歳以下の場合であっても、10歳前後からはその意思が考慮されるとするのが一般です。もっとも、7、8歳から考慮すべきであるとの見解もあります。子がその年齢を下回り、幼くなればなる程、自分の意見を明確にする能力に乏しくなっていきますが、その場合、子の年齢自体が判断要素として意味を持ってきます。つまり、子の年齢が下がれば下がる程、母親を親権者と指定するケースが多くなります。乳幼児期の子には、特に母親の情愛が子の精神的発育にとって極めて重要な意味を持つからです。
そして、子側の環境的要因の中には、兄弟姉妹不分離の原則というものがあります。兄弟姉妹は一緒にいるべきであり、敢えて親権者を分離して、その結果、兄弟姉妹を分離するのは妥当でないとの考えからです。兄弟姉妹同士の交流がその後の発育上好ましい効果を及ぼすとの予測に基づくものですが、それ程強い要請とはされていません。
他方、同じく、子の環境的要因の中に、監護継続性維持の原則というものもありますが、これはかなり重視される傾向にあります。子がある程度長期間、同じ環境で平穏に生活している場合には、その環境を変えるべきではなく、現状を尊重するのが妥当との考えに基づいています。
最後に、判断全般の基準として、母性優先の原則というものがあります(東京高判昭和56年4月27日)。この要請は、我が国では特に強く、子の親権が争われた事例で、全体の9割ないしそれ以上が母親と親権者が指定されていると言われています。