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基本的には、このケースで引越し業者等に対して損害賠償請求をすることは難しいと思われます。

もっとも、例えば、引越し業者との契約の中で、①荷物を指定した場所に運搬することを内容として、②それに応じた「追加料金」等を支払うことを合意した場合には、債務不履行を理由として追加料金分について損害賠償請求ができるのではないかと思われます(民法415条等)。
また、③上記①に違反した場合には「違約金」が発生する旨の合意をした場合にも、その違約金を請求することができると思われます。

追加料金や違約金等の定めがない場合には、債務不履行(民法415条)や不法行為(使用者責任、民法715条1項)といった根拠によって、引越し業者に対して損害賠償請求をしていくことも考えられますが、その場合、特に「損害」の立証が困難であると思われます。

1 運送契約の性質

 上の質問の内容は、要するに、日本語もカタコトな外国人の引越しスタッフが、荷物を指定の場所ではないところに運搬してしまったことについて、引越し業者に対して損害賠償請求をすることができるかというものです。

 引越しは、法律上は、「運送契約」の一種であると考えられます。
 運送契約とは、運送人が物品等の場所的移動を約し、荷送人がこれに対して報酬(運送賃等)を支払うことを約する契約のことをいいます。

 引越しの場合、通常は、「物件(旧居)から物件(新居)まで荷物を運搬すること」に対して料金を支払うことが契約内容となっていると考えられます。
 そのため、たとえ荷物を運搬した具体的な場所(リビング、洋室、和室等)が指定の場所とは違ったとしても、指定の物件(新居)に荷物が運搬されている以上、契約違反とまではいいにくい部分があります。

 実際に、運送契約に関して規定する商法を見ても、損害賠償請求をすることができるのは、基本的には、荷物を「滅失」「毀損」「延着」した場合を想定しているものと考えられます(商法577条)。
 そのため、法の建前としても、基本的には、たとえ引越し業者が荷物を運搬した具体的な場所(リビング、洋室、和室等)が指定の場所とは違ったとしても、指定の物件(新居)に荷物を運搬してさえいれば、損害賠償の対象になるものとは想定していないといえそうです。

2 追加料金や違約金等の定めがある場合

 もっとも、例えば、引越し業者との契約の中で、①荷物を指定した場所に運搬することを内容として、②それに応じた「追加料金」等を支払うことを合意した場合等には、引越し業者には、「それぞれの荷物を指定された場所に運搬する具体的な義務」があることになります。
 このとき、既に追加料金も含めて代金を支払っていたにもかかわらず、指定した場所と異なる場所に荷物が運搬された場合には、上記義務に反したとして、債務不履行を理由として追加料金分について損害賠償請求ができるのではないかと思われます(民法415条等)。

 また、追加料金という形ではなく、③上記①(荷物を指定した場所に運搬すること)に違反した場合には「違約金」が発生する旨の合意をした場合にも、その違約金を請求することができると思われます。

 そのため、まずは、引越しの際に引越し業者との間で交わした契約書や約款等をよく読んで、追加料金や違約金等の定めがあるか確認してみてください。

3 追加料金や違約金等の定めもない場合

 追加料金や違約金等の定めがない場合であっても、債務不履行(民法415条)や不法行為(使用者責任、民法715条1項)といった根拠によって、引越し業者に対して損害賠償請求をしていくことも考えられます。
 ただし、この場合には、まず、そもそも、契約書において上記①のような合意をしていなくても、一般的に、引越し業者に「荷物を指定の場所に運搬する義務」があるといえるのか、さらには、この場合の「損害」をどのように認定するのか、が問題となりそうです。

 特に、損害の認定については、指定した場所とは異なる場所に荷物を運び込まれたことによって、具体的にいくらの損害が生じたのかを立証することは難しい面があると思います。

 たとえば、運搬中に荷物を破損された場合であれば、その物の価値を金銭的に評価して賠償請求することができます。この場合は、金銭的な評価が容易です。
 しかし、荷物を誤った場所に運搬されたこと自体を金銭的に評価することは、容易ではありません。「その荷物を適切な場所に移動させる労力」を金銭的に評価することになると思われますが、これはなかなか困難でしょう。
 一つ考えられるのは、その荷物を適切な場所に移動させることを家事代行業者や便利屋等に依頼した場合に掛かる費用を損害としてみるという方法です。
 ただ、その金額が引越し費用総額からみて多額になってしまう場合等には、その金額全額は、損害としては認められない可能性もあるでしょう。

 具体的にどのような根拠に基づいて損害を立証していくかについては、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。