3.ペットを失ったことに対する慰謝料請求
次に、ペットホテル側の責任が認められたとして、慰謝料が認められるでしょうか。
基本的には、現在の日本の法律においてペットを含む動物は「物」として扱われており、ペットホテルからペットが逃げ出した場合は預かった物を無くしてしまったのと同じように解釈されてしまいます。そして、物を無くした場合の損害は、その物の時価額を賠償すれば足りるという考え方がとられています。そのため、ペットを失った悲しみという精神的な損害に対する慰謝料を請求することは困難であります。
もっとも、ペットというのは、飼主のペットに対する特別の愛情やや深い敬愛の念が付随することが通常であり、同種の動物を買えば済むものではないため、例外的に慰謝料を認める例があります。
例えば、名古屋高裁平成20年9月30日判決では、交通事故により愛犬が重傷を負った事例で「犬などの愛玩動物は,飼い主との間の交流を通じて,家族の一員であるかのように,飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくない」という理由で20万円の慰謝料を認めましたし、千葉地裁平成17年2月28日判決では、ペットホテルに9頭の犬を預けたところ、5頭が死亡し、2頭が重傷を負った事例で「努力して入手したり,愛情を持って育てたりしたことから,それぞれに愛着を持っていた本件犬を失ったものである」ことを理由に70万円の慰謝料を認めています。前述した福岡地裁の裁判例も金額は明示しなかったものの、賠償額に慰謝料が含まれていることを明示しています。
ただ、このような考え方が一般化したとはまだまだ言えませんし、金額も人間の家族を失った場合とでは比べものにならないくらい低いですので、現在の法制度では十分な慰謝料は認められないと考えた方がいいでしょう。
4.大切なペットを失わないために
以上のことからも、ペットホテルに慰謝料を請求することが困難であることがお分かりいただけたと思いますし、そもそも、ペットホテルに預ける場合、逃げ出すだけに限らず、病気や怪我といった様々なトラブルが発生する可能性があります。ここからは法律の話から少し外れますが、これらのトラブルを避けるために気を付けるべきことをご紹介します。
まずは、何よりも施設の下見が大切です。飼育環境や安全管理等、できる限りの情報を集めておくべきでしょう。また、可能であれば早い内に実際にペットを預けてペットホテルに慣らしておくことも大切です。
そして、実際に預ける際はペットの特徴や保管時の要望をできる限りペットホテルに伝えるべきです。前述した福岡地裁の裁判例でも、事前に他の犬と一緒にしないでほしいという飼主の要望を伝えていたからこそペットホテル側の過失が認められたと言えます。もちろん、ペットホテルも全ての要望に応えられるわけではありませんが、トラブル防止のためにも事前に伝えられる情報は全て伝えて相談する方がいいでしょう。
それでも、生き物を他人に預ける以上は完全にトラブルを防ぐことは難しいかもしれません。不幸にしてトラブルが発生してしまった場合、少しでも損害を賠償してもらうにはペットホテルの過失の程度や慰謝料を含む損害の額等で綿密な立証が必要になりますので、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。