1. 改正の背景
平成24年8月、労働契約法が改正され、有期労働契約(パート、アルバイトなど。)に関して新たに3つのルールが追加されることになりました。
期間雇用は、企業にとって、雇用調整がしやすい契約形態であるため、多くの企業で採用されています。その一方で、平成20年秋に起きたリーマンショックの影響で、有期契約労働者の雇止めが社会問題化し、有期契約労働者の雇用安定の声が高まったことから、労働契約法の中に、新たに3つのルールが設けられることになりました。
2. 3つの新ルール
(1) 無期労働契約への転換(新労働契約法18条)
同一使用者との間で、平成25年4月1以降開始する有期労働契約期間が通算で5年を超えて反復更新された場合において、労働者が期間の定めのない労働契約の締結を申し込んだ場合、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされ、期間の定めのない労働契約へ転換するというものです。
使用者にとって注意すべき点は、労働者の無期労働契約への転換の申込みがあれば、使用者が承諾したものと「みなす」という点です。つまり、労働者からの申込みが新労働契約法18条の要件を満たすものである限り、使用者は必ず無期労働契約への転換に応じる必要があり、これを拒否することはできません。
また、有期労働契約者の雇用安定という趣旨から、企業が、無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とすることは許されず、そのような定めは無効になると解されます。
ただし、例えば、契約期間が1年単位で更新される場合、ある契約期間とその次の契約期間の間に、契約のない期間(空白期間)が6か月以上あるときは、空白期間前の有期労働契約期間は通算契約期間に含まれません(クーリング)。
無期に転換した後の労働条件(賃金、職務、勤務地、労働時間など)は、契約期間の点を除き、基本的に、有期労働契約における労働条件と同一となります。もっとも、転換の際の個別の同意、就業規則、労働協約などに別段の定めがあれば、それに従うことになります。
(2) 雇止めに関する判例法理の法定化(新労働契約法19条)
従前、判例では、企業が有期労働契約の更新を拒絶するいわゆる「雇止め」について、労働者に契約更新(雇用継続)されることについての合理的期待が生じているものと認められる場合、期間の定めのない労働契約に関する解雇権濫用法理を類推し、当該雇止めについて客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められない限り、従前と同一の条件で労働契約が更新されるとの法理を確立していました。
新たに追加された新労働契約法19条は、上記判例法理を立法化したものと言われています。
すなわち、以下のいずれかに該当する場合において、労働者が契約更新等の申込みをしたとき、企業が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、同一の労働条件で有期労働契約が更新されることになります。
① 過去に有期労働契約が反復更新されたことがある場合であって、当該雇止めが社会通念上期間の定めのない労働契約における解雇の意思表示と同視できる場合
② 労働者において、有期労働契約の契約期間満了時に、当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合
②にいう「合理的な理由」の有無については、雇止めに関する判例が示した判断要素(仕事の種類・内容・勤務形態、地位の基幹性・臨時性、雇用継続を期待させる当事者の言動・認識の有無、契約更新の状況・更新手続の厳格性の程度、同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無など)にしたがって、総合的に判断されることになります。
(3) 不合理な労働条件の禁止(新労働契約法20条)
平成25年4月1日以降、同一の使用者のもとに有期契約労働者と無期契約労働者がいる場合に、両者の間で、期間の定めがあることにより、不合理に労働条件を相違させることは禁止されます。
本条に定める労働条件には、賃金や労働時間だけでなく、服務規律、福利厚生、教育訓練など、一切の労働条件・待遇が含まれます。
有期契約労働者の労働条件が不合理であるか否かは、労働者の職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、個別具体的に判断されます。
例えば、定年退職後、有期労働契約で再雇用された労働者の労働条件が、定年前の労働条件よりも低下した場合、定年後の職務内容や地位が、定年前のそれらよりも下回るときは、基本的に、不合理な労働条件とはならないと解されます。
使用者が本条に違反した場合、不合理な労働条件を定めた部分は民事上無効となり、無期契約労働者の労働条件と同一扱いとなるとともに、場合によっては、不法行為として、有期契約労働者に対し損害賠償責任を負う可能性があります。
3.新ルールのもとでの企業の対応
無期労働契約への転換の方式については、労働契約法上格別の規制はなく、口頭で行ってもよいと解されます。しかし、有期から無期に転換することは、基本的かつ重要な労働条件の変更であるため、企業としては、後日の紛争回避のため、書面で申込みを行うよう有期契約労働者に周知徹底させた方がよいと思われます。
また、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、各種手当等に相違をもたせている場合には、新労働契約法20条に定める要素に照らし、不合理な内容となっていないか再検討する必要があるとともに、無期労働契約に転換する場合も、転換がスムーズに進むように、事前に労働者と協議し、転換後の労働条件を就業規則や個別の労働契約書に規定しておくことが望ましいと考えられます。
なお、企業において、有期契約労働者の更新(無期転換)を望まない場合、最終的には雇止めを行うことになりますが、新労働契約法19条が適用される場合、同条及び雇止めに関する従前の判例法理の制限を受けることになるため、契約更新手続を厳格に管理することが重要であると思われます。