前回は、誰が著作者になるのか、についての原則をお話ししました。
(前回の記事はこちら:著作権法入門③)
今回は、その例外である「職務著作」についてお話ししたいと思います。
日本では、著作権法上、「著作者」に著作権が帰属するのが原則です(著作権法2条1項2号、17条1項)。
これに対する例外の1つが「職務著作」といわれるものです。
「職務著作」とは、講学上の概念で、著作権法に出てくる言葉ではありませんが、著作権法15条により著作者となる場合のことをいいます。
例えば、雑誌記者が職務上作った記事があった場合、その記事の著作者は、記事を書いた記者ではなく、その記者の所属する法人等ということになります。これが「職務著作」が成立した場合の効果です。
なぜこのような制度が設けられているのでしょうか。
一般的には、次のように説明されます。
第1に、「使用者の保護」という理由です。
例えば、会社では、職務上の指示に従って、日々大量の著作物が生み出されているはずです。ここで、もし、 その著作物それぞれに、各社員ごとの著作権が成立するとどうなるか。会社は、社員が会社のために作成した著作物なのに、自由に利用できないことになってしまいます。
そこで、要件を満たしたものは、職務著作として、会社を著作者としてしまおう、と考えたわけです。
第2に、「第三者の保護」という理由です。
例えば、ある著作物が、会社のものとして公表されているにもかかわらず、実際には個人の著作物であると いうことになると、当該著作物を利用しようとしている第三者は、誰から許諾を得ればいいのか分からなくなってしまいます。また、仮に特定できたとしても、社内の複数名で作成していた場合や、既に退職している等の場 合、全員から許諾をとることは困難です。
そこで、同じく、会社を著作者としてしまえば良いと考えたわけです。
では、職務著作の成立要件は何でしょうか。
著作権法15条1項には「法人その他使用者・・・の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上 作成する著作物・・・で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に特段の定めがない限り、その法人等とする」との定めが置かれています。
ここから、職務著作の要件は、
① 法人等の発意
② 業務に従事する者
③ 職務上
④ 公表名義
⑤ 別段の定めがないこと
の5つであることが分かります。
以下、各要件を検討していきましょう。
(1)法人等の発意
「法人その他使用者」には、自然人も含みます。なお、法人には、いわゆる権利能力なき社団・財団も含みます(著作権法2条6項)。
「発意」とは、「著作物作成の意思が直接又は間接に使用者の判断にかかっていること」と解されています。
なお、上記「職務上」の要件を満たしている場合は、通常は使用者の発意に基づいているものと考えられます。
(2)業務に従事する者
典型的には、雇用契約を結んでいる関係をいいます。対して、例えば外注した場合などは、この要件に該当しません。
問題は、雇用関係を超えて、どこまで「業務に従事する者」に含まれるかです。
判例は、
「法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。」
と判示しています(最判平成15年4月11日判時1822号133頁)。
この判例を基準とする裁判例も見受けられますが、 あくまで雇用関係にあることが主張された場合の事案であるため、雇用関係にない場合にもこの基準で行うと判断したわけではないとの批判もあります。
現状は、この判例の基準に従いつつ、今後の判例を待つ、という実務状況かと思われます。
(3)職務上
「職務上」作成されたといえるためには、著作物の生成が、従業者の直接の職務内容としてなされたことを要するものと解されています。
(4)公表名義
要するに、法人等の名義で公表されなければなりません。 未公表であっても、法人等の著作名義で公表が予定されていたものを含みます。
なお、プログラムの著作物の場合は、この要件は不要です(著作権法15条2項)。
(5)別段の定めがないこと
契約において、職務著作とならないことを定めておけば、そちらが優先するという事です。
弁護士 水野太樹