こんにちは。
 今年も残り2か月を切り、年内に心配事を解決してしまおうというご依頼者様も増え、弁護士業界も忙しくなる季節が到来しました。

 さて、年が明ければ、受験生にとってはセンター試験や各学校の入学試験が待ち受けていることから、これから最後の総仕上げとして模擬試験をたくさん受け始めるころかと思われます。本ブログをご覧の皆様も、この季節に模擬試験をたくさん受けて一喜一憂した思い出もあるかと思われます。
 今回は、待ち構えている入学試験や模擬試験、さらに勉強のために必要な試験問題集と著作権に関するお話をしたいと思います。

 これまで受けてきた試験を思い出していただければ、国語には小説や随筆等が掲載されていたり、社会には新聞記事の一部やどこかの機関が作成した図表が乗っていたりしていたことと思われます。実は、それらのほとんどについて、著作権が存在しているのです。
 特に小説等をイメージしていただければわかりやすいかと思われますが、小説が一部引用された最後に小説名と作者が記載されており、著作権と著作権者の存在が伺われます。
 すると、本ブログでも過去に他の弁護士がご説明の通り、著作権者に無断で小説を引用することは、著作物の無断複製ということになりそうです。
 ところが、著作権法は、36条1項において、試験問題としての複製等について定められているところ、「入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信を行うことができる。」とされております。
 すると、入学試験については、通常、必要と認められる限度であれば、使用することは著作権の無断複製とはならないうえに、無償で使用できるということになります。
 もっとも、小説全文を載せるというのは通常試験のためには必要ないと思われますので、そのような複製を行うことは本条でカバーされるものではなく、著作権の無断複製に当たると思われます。

 では、模擬試験についてはどうなるのでしょうか。
 結論としては主体と目的によります。

 36条2項には、「営利を目的として」試験において複製を行う場合に、相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならないとされていることから、たとえば予備校が行う模擬試験のように通常営利目的があるものについては、1項ではなく2項が適用される結果、複製するに際しては補償金を支払わなければならなくなります。
 一方で、学校等が自らの生徒に対し行う模擬試験に関しては、授業料等の他に料金を取るといったような事情がない限り、授業の一環であることから、36条1項若しくは、35条の学校その他の教育機関における複製にあたるものとして、無償で使用することができます。

 では、試験問題集はどうでしょうか。
 ここでは、36条の趣旨を考えることになります。
 36条において著作権者の断りなく複製が許されている趣旨は、入学試験等に関しては事前に内容が外部に漏れることで試験の公正、円滑な実施を佐俣が得る恐れがあり事実上困難であること、及び試験問題において著作物を使用することは一般に著作物の通常の利用と衝突することはないことから、認められているのです。
 そのため、試験問題集のように、事前に内容が外部に漏れても問題がないことから事前に著作権者の許諾を得ることが可能なものについては、36条の適用はないことになり、試験問題の作者等や、独自の問題を作成するにしても小説の作者等に許諾を得る必要があります。

 以上のように、同じような試験問題であっても、場面によって著作権法の規制の在り方が異なります。

 最後に、36条には但書としてこのような文言があります。

「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することになる場合は、この限りではない。」

 この、「著作権者の利益を不当に害する場合」とはどのような場合かというと、たとえば小説のラストをばらしてしまう場合などが考えられます。
 特に推理小説で犯人がわかる部分だけ引用してしまうと、但書に当たる恐れがあるということになりますし、受ける側としても最初からネタばらしを受けてしまうのはたまったものではないので、もし試験を作る機会があればご注意ください。

弁護士 中村 圭佑