1 はじめに

 今回は、会社の行為と商行為について述べた判例(最判平20.2.22民集62巻2号576)について紹介したいと思います。

2 事案の大まかな内容

 Xは、Y社(株式会社)に対し、自己所有の土地(以下、「本件土地」といいます。)に設定された抵当権設定登記の抹消を、本件土地の所有権に基づき求めました。これに対し、Y社は、平成3年に会社名義で貸し付けた債権の存在を理由に反訴請求しました。
 Xは、第一審の口頭弁論期日において、反訴請求に係る債権について商法522条所定の5年の消滅時効が完成しているとして、5年の消滅時効を援用しました。
 第二審である高等裁判所は、反訴請求に係る債権の原因である貸付行為は、Y社代表取締役のXに対する情宜に基づいてなされたものとみられる余地があり、商法522条は、反訴請求に係る債権には、適用されないと判断しました。

3 争点

 会社の行為について、「商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。」と規定する商法503条2項の適用があり、Y社のXに対する貸付債権が5年の経過により時効消滅するのでしょうか。

4 判旨

「会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とされているので(会社法5条),会社は,自己の名をもって商行為をすることを業とする者として,商法上の商人に該当し(商法4条1項),その行為は,その事業のためにするものと推定されるからである(商法503条2項。同項にいう「営業」は,会社については「事業」と同義と解される。)。」

5 解説

 本判決は、たとえ代表取締役の情宜に基づく貸付であっても、会社の行為であれば商法503条2項が適用され、商行為性が推定されることを示しました。したがって、会社名義による貸付は、5年の消滅時効により、消滅してしまします。
 そこで、債権の時効消滅を防ぐためには、たとえ信頼関係のある相手方であっても、債務を承認させるために、一部を弁済させたり、訴訟手続によって請求する等時効中断の措置を採るべきだと考えられます。

弁護士 大河内由紀