株式会社の役員は、任期満了前でも株主総会の決議により解任されますが(会社法339条1項)、一定の要件を満たした場合には、訴えによっても解任されます(会社法854条)。

 上記の役員解任の訴えの要件の一つには「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」(会社法854条1項柱書)があります。

 今回は、「役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実」(以下、「解任事由」といいます。)について、発生時期等を限定した裁判例をご紹介します。

事案

 取締役として何度も再任されているaについて、Ⅹらがaが再任される前の事由を解任事由の一つとしてaの取締役解任を求めた事案

判断

 宮崎地裁判決平成22年9月3日判例時報2094号140頁は、以下のように判断しました。

 取締役解任の訴えの目的とするところは、原則として、取締役が当該任期中に、職務の執行に関して、取締役の地位にとどめておくことが不適切と認められるような不正行為等を行った場合、任期満了前に当該取締役と会社の委任関係を解消させることにあると解せられるとし、aを再任した株主総会においては、Ⅹらが主張する事情等を踏まえたうえで、aの取締役としての適格性等について新たな判断がなされたことなどの本件事実関係に照らせば、aの現在の任期前に発生・判明していた事由であるⅩ主張の本件解任事由は、会社法854条の解任事由には当たらない、と判断しました。

まとめ

 上記裁判例の立場によれば、仮に解任事由に該当する行為を行っていたとしても、その事実を踏まえて取締役として再任されれば、その解任事由を理由としては訴えによっても解任されないことになります。しかし、当然ながら、取締役としての地位を失わなくても、上記の解任事由により会社に対し損害賠償責任を負う場合には、賠償義務の問題が生じますので、賠償責任については総株主の同意による免除(会社法424条)などの対応が必要となります。