前々回の記事(2月10日分)では、なぜ国は特許という制度を作って発明者を保護しようとするのかについて検討していきました。そして前回(3月2日分)は、発明者を具体的にどのように保護するのかを検討しました。今回はどのような条件を満たしたときに発明者を保護するのかを検討したいと思います。

 そこで、前々回(2月10日分)の復習ですが、なぜ発明者を保護するのかという理由の一つとして、発明者を保護しないと、模倣品による価格競争になることを見越した発明者が、発明の内容を秘匿してしまう結果、別の人が時間、人、金を既に創作された発明のために重複的に投資することになってしまい、有限な資源の無駄使いとなってしまうというものがありました。

 このような弊害を防止するための方策としては、発明者に発明の内容を公開してもらう必要があります。発明の内容が公開されれば現在どのような発明がされているかを知ることができるので、同じ発明のために資源を投入する必要がなくなります。

 このため特許法では、特許を受けるためには「出願」という手続を踏むことを絶対の要件にしています(特許法36条1項参照)。そして、出願された発明は、出願の日から1年6月経過すると、特許が与えられるかどうかにかかわらず、一般に公開されることになります(特許法64条1項参照)

 以上のように発明者を保護する条件として、発明者に「出願」という手続を踏むことを絶対の要件にしています。そして出願の後、発明の内容が公開されることによって、有限な資源の重複投資を防止しようとしているのですね。

 このように発明者を保護する条件として、公開を前提とする出願という手続を要求していることから、発明者が特許権によって保護されるのは、「新規発明公開の代償」のためだといわれています。つまり、新しい発明をして、それを秘匿する方途もあったのに、発明を広く一般に公開してくれた特典として、国が特許による保護を与えるという考え方です。

 このような考え方は一理あるように思えますよね。しかし、出願という手続をふんでとにかく公開しさえすれば特許による保護が与えられるのでしょうか。それは少しおかしいような感じがしますよね。そこで次回以降、出願にあたってどのような要件が要求されているかについて検討していきたいと思います。

 それでは、また。

弁護士 福永聡