今回は、証券会社の担当者が、複雑な仕組みの投資商品を、取引経験がなく、積極的な投資意欲のない顧客に対して勧誘後短期間に多額にわたって購入させる行為が、適合性原則違反(金融商品取引法40条1号)及び説明義務違反として不法行為となるかというお話をいたします。
まず、適合性の原則というものからご説明いたします。適合性の原則とは、顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らし、不適当な勧誘を行ってはならないというもので、金融商品取引法40条に規定されています。
これは、複雑な金融商品の仕組みを理解することができない消費者が、専門的知識の豊富な金融商品を販売する者の巧みな説明によくわからないまま手を出して、結果大きな損害を被ることを防ぐために用意されたものです。
事例としては、以下のようなものでした。
Xは、自ら証券取引を行った経験がなかったのですが、相続により多額の資産を持つことになりました。それを知った証券会社Yの担当者Aは、Xに対して証券取引等の勧誘を行いました。Xは、証券取引の経験も知識もなかったのですが、Aに勧められるまま、合計約2億円を超える投資信託や債券等の投資商品を購入したところ、結果的に4000万円以上の損失を被りました。
そこで、XはYに対して、損害賠償請求訴訟を提起したのですが、一審では、Yによる適合性原則違反を否定した上で、Aによる金融商品についての説明義務違反を認め、7割の過失相殺と判断しました。XとYは、この判決を不服として控訴しました。
控訴審では、Xの購入した金融商品が、ハイリスクな金融商品であり、商品の特性やリスクをよく知ったうえで、リスクをとっても相当な利益を得ることを狙う積極的な投資意向に適合する投資商品であると認定しました。その上で、Xは相続により多額の資産を有するに至ったものの、もともと投資に関心がなく、取引経験も積極的な投資意向もなく、高齢でかつ介護を要する母親と二人暮らしという状況を考えれば、8か月余りの間で2億円以上を投じさせる勧誘行為は、適合性の原則に著しく違反すると判断しました。
さらにXは投資商品の仕組みやリスクをよく理解していなかったにもかかわらず、AはXの投資経験や投資意向に関心を払っておらず、事前に説明文書等を交付してXが理解できるように説明していないとして、説明義務違反についても認めています。
以上のように、Aの行為は適合性原則違反及び説明義務違反であるとし、その違法性は大きいとして、一審よりXの過失相殺の割合を下げて4割と判断しました。
金融商品は、仕組みが複雑で一般的な消費者には理解が困難です。したがって、販売を行うにあたっては、十分な説明をするだけでは足りず、勧誘方法も厳しく制限されているということがわかります。