前回は、賃貸借契約の目的物が共有物の場合には、契約解除は共有者の持分価格の過半数の同意が必要であることを説明しました。
 (前回の記事はこちら:共有物と賃貸借

 今回は、共有物と賃貸借の、別の事例を取り上げます。テーマは、持分の価格が共有物の価格の過半数である共有者(多数持分権者)と共有物の賃貸借契約を締結した賃借人は、持分の価格の過半数に満たない共有者(少数持分権者)が目的の共有物を単独使用する場合に、目的の共有物の明渡しを請求できるかです。

 民法249条より、各共有者は、共有物の全部について、その持ち分に応じた使用をすることができます。判例(最判昭和41年5月19日民集20-5-947)は、少数持分権者は他の共有者との協議を経ずに、当然に共有物を「単独で」占有する権原を有さないと判示していますが、一方で、多数持分権者は共有物を占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡しを求めることはできないとも判示しています。少数持分権者も、自己が有する持分権に応じて共有物を使用することができるからです。

 多数持分権者が第三者と共有物の賃貸借契約を締結した場合、賃借人たる第三者の有する権利はどのようなものなのでしょう。東京地判平成20年10月24日(判例集未登載)は、賃借人たる第三者は、契約の他方当事者である多数持分権者の共有持分に基づき共有物の占有権限を主張できるにとどまるのみと判示しています。同判決の見解では、多数当事者が第三者と共有物の賃貸借契約の締結をしても、少数持分権者の共有物占有権限は失われないこととなります。そうすると、先述の41年判例に従って、賃借人たる第三者は少数持分権者に、目的物の明渡しを請求することはできないということになります。

 共有物件を賃貸に出す場合、賃貸人である共有者や、共有者から委託を受けた仲介業者は、賃貸人が全ての共有者からの同意を得ているか注意したほうがよいかもしれません。契約締結後、他の共有者が共有物件を占有している場合、当該共有者を立ち退かせることができずに、賃借人に物件を引き渡すことができなくなることが考えられます。そうなると、賃貸人は、債務不履行責任等を追及されることにもなりかねません。

 なお、先述の東京地裁平成20年判決は、「少数持分権者が、他の共有者が平穏に占有していた共有物を同共有者の同意を得ることなく、その占有を実力で排除するなど少数持分権者の持分に基づく占有の主張が権利の濫用に当たるような特段の事情」がある場合には、少数持分権者による目的物の占有に対して、多数持分権者が明渡請求を行うことができると述べていますが、結論としては権利の濫用を認めていないため、少数持分権者に対して明渡しを求めることは困難といえそうです。