相談内容

 ニュースや新聞報道により、賃借人が逮捕され、警察署に勾留されているとの情報に接しました。

 実際にも、最近部屋に戻っている様子はなく、大家さんからは、いつ戻ってくるのか分からないし、家賃も払ってもらえていないので早く追い出してほしいと言われています。

 警察に問い合わせても、詳しい情報は教えてもらえず、今後、部屋を残しておく必要があるのか分かりません。

 また、隣室の居住者からは、犯罪者と同じ建物に住んでいるなんて我慢ならないから、追い出すか、追い出せないなら自分が出ていくから引越費用を払えと言われています。

回答

 まず、やってはいけないこととして、部屋から逮捕者を追い出すために、裁判手続きをとることなく、部屋を片付けて明け渡してしまうことです。たとえ、部屋を使用しない状況が継続していたとしても、そのことだけをもって、法的手続きによらない自力救済が認められることにはなりません。

 部屋の明渡しを実現するためには賃貸借契約を解除することが必要となりますが、たとえ、賃貸借契約書において賃借人が逮捕された場合を解除事由として定めていたとしても、裁判例においては、逮捕されたという一事をもって信頼関係が破壊されたとは評価していないものも多く、結局、勾留中に生じる未払い賃料を原因として、賃貸借契約を解除しなければならない場合が多いのが実情です。

 できるだけ早く、大家さんや隣人の要望をかなえるためには、逮捕された賃借人自身と面会して、合意解約する旨の書面を取得し、部屋にある荷物の所有権を放棄する旨の所有権放棄書を取得するなどして、本人の同意を得たうえで部屋の片づけをすることでしょう。しかしながら、たとえ所有権放棄書を得ていたとしても、犯罪に関連する物品が部屋の中に残されている事件もあるため、警察と連絡を取り合って部屋の捜査が終了しているか確認しなければ、思わぬところで証拠を隠滅してしまい、捜査を妨害するといったことにもなりかねません。

 なお、隣人からの要求に応じるべきか否かですが、上記のとおり、逮捕されたという一事をもって退去させることは困難であり、逮捕者が出たこと自体によって隣人が引っ越しせざるを得なくなるという因果関係も認められないと思われますので、応じる必要はないと考えられます。