1 はじめに

 前回は、就業規則の効力について、ご説明しましたので、今回は、就業規則の変更の際の留意点についてご説明しようと思います。

2 合意原則

 労働契約法9条は、労働条件の不利益変更は、労働者との合意がなければできない、との定めており、原則として労働条件は労働者との合意以外の方法では変更することができないことが確認されています。
 しかし、これだけでは、組織的に活動しなければならない企業にとって、労務管理だけでも大変なことになってしまいます。

3 合理的変更の例外

 労働契約法は、合意原則を確認する一方で、就業規則の変更が、合理的なものであるときは、労働条件を変更後の就業規則に定めるところによるものと定めています。
 労働契約法は、労働者との合意によらずとも労働条件を変更することを認める方法を用意しながらも、一方で、内容等が合理的なものでなければならないとして規制しているのです。

4 合理性の判断要素(労契法10条)

 労働契約法は、合理性の判断基準として、①不利益の程度、②変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性(内容自体の相当性、代償措置等の改善状況)④労働組合等との交渉の状況、⑤その他就業規則の変更に係る事情、を挙げています。

 ①から③については、就業規則の内容に関する要素であり、④及び⑤は、変更に至る経緯等の手続的な要素です。

 実際に不利益変更が行われた場合は、①から⑤までの要素が総合的に判断されることになりますので、変更が認められるか否かを即時に判断することは容易ではありません。
 例えば、①については、賃金や退職金の支給額等を変更することは、不利益の程度が強いため、②の変更の必要性や③の内容自体の相当性が厳しく要求されるものと考えられます。

 労働条件のなかでも、賃金や労働時間、定年時期等は労働者にとって不利益の程度が強いと考えられます。したがって、就業規則の変更を有効にするためには、労働者にとっての不利益を緩和すべく、労働者にとっても不利益ばかりでない変更にするなど様々な手段を講じ、粘り強く交渉したうえで、合意しきれなかった場合に限り就業規則の変更によるといった工夫が必要になると考えられます。