1.意義

 労働審判制度とは、労働審判官(裁判官)1人と労働審判員(労働関係に関する専門的な知識と経験を持つ民間人)2人で組織された労働審判委員会が、個別的労働関係紛争(解雇無効や未払賃金請求等の労働者・使用者間の紛争)を、原則として3回以内の期日で審理し、調停を試みるなどして、迅速かつ柔軟な解決を図る紛争解決手続です。
 労働審判制度は、労働審判法に基づく制度であり、平成18年4月1日からスタートした、比較的新しい制度です。

2.導入の背景(制度趣旨)

 近年、労働組合・使用者間の集団的労使関係紛争(不当労働行為救済申立て等)の件数が減少傾向にあるのに対して、労働者・使用者間の個別的労働関係紛争は、バブル崩壊後の労働環境の変化や、労働者の権利意識の向上、情報に対するアクセス性の向上等によって増加傾向にあります。
 かかる個別的労働関係紛争を迅速かつ適切に処理するための制度として、労働審判制度が導入されました。

3.労働審判制度の特色

⑴ 専門家の司法手続への参加(専門性)

 上記1で述べたように、労働審判手続には、審判官である裁判官1名の他、労働審判員として、労働関係問題に精通した専門家2名も関与し、専門的知識・経験に基づき、事案に応じた解決を図ることになります。
 労働審判員は、公平性を期すため、労働者側、使用者側の立場からそれぞれ1名ずつ選ばれます。
 ただし、実際には、労働者側審判員の立場にあるからといって、必ずしも常に労働者の主張に賛同したり、労働者を擁護するというわけでもないようです。

⑵ 原則3回以内での処理(迅速性)

 労働審判が、労働者に関する紛争を対象とすることから、特別の事情がある場合を除いて、原則「3回」以内に審理を終結させなければならないものとされています。
 この迅速性の要請は、労働審判制度において最も重視されており、3回以内での審理終結を実現するため、様々な工夫がされています。
 なお、平成19年から平成22年までの統計によれば、調停が成立した案件の内、約97%が3回以内の期日で成立しており、全体の約4分の1は、第1回期日で調停が成立しています。かかるデータからも、労働審判手続のスピーディさを窺い知ることができます。

⑶ 調停を包み込んだ審判手続

 労働審判手続は、調停手続を包み込んだ審判手続です。
 すなわち、労働審判委員会は、労使間の主張・証拠の整理をした上で、調停(話合い)による解決ができそうであればこれを試み、かかる解決が難しい場合に、審判を下すことになります。

⑷ 事案に即した解決

 調停(話合い)による解決が難しい場合、労働審判委員会は、権利関係を踏まえつつ、事案の実情に即した解決を行うための審判を下すことになります。
 なお、審判に対し、当事者が適法な意義を申し立てない場合、審判は裁判上の和解と同一の効力を有し、これをもとに強制執行をすることが可能です。

⑸ 訴訟手続との連携

 当事者は、審判に対し適法な異議申立てをすれば、審判はその効力を失い、労働審判申立て時にさかのぼって訴えを提起したものとみなされることになります。
 このように、労働審判手続での紛争解決の取組みが水の泡とならないよう、労働審判手続と訴訟手続の連携が図られています。

 というわけで、今回は、労働審判制度の意義や特色等についてお話させていただきました。
 次回は、労働審判手続の運用状況等についてお話ししたいと思います。