このブログをご覧になっている方の中には、社内預金をしていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。
社内預金は、一般的には、通常の銀行預金よりは高金利であることが多く、銀行に預金するよりもお得な感じがするかもしれません。
しかし、銀行はめったなことではつぶれませんが、それに比べて一般企業は倒産しやすいというリスクがあります。
そこで気になるのが、会社が破産してしまった場合、社内預金は全額払い戻ししてもらえるのか、ということです。
この点について判断した次のような判例があります。
札幌高裁平成10年12月17日判決
(事案)
Xは、A社に入社し、合計300万円の社内預金をしていた。
ところが、A社が破産してしまった。
そこで、Xは、社内預金債権を、優先権のある破産債権として届出た。
ここで、社内預金が優先的破産債権となるかが問題となった。
(結論)
優先的破産債権とはならない。
ここで、そもそも、優先的破産債権とは何か、についてご説明いたします。優先的破産債権とは、一般の先取特権その他一般の優先権ある破産債権のことです。破産債権は、弁済を受ける順位によって、優先的、一般、劣後的及び約定劣後破産債権に分けられ、優先的破産債権は、ほかの3種の破産債権よりも先に弁済を受けることとなります(破産法194条1項)。
本判決がこの結論に至った理由は、大きく分けて2つあります。
① 社内預金は、「賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)」によって、一定の保全措置が講じられています。これは、もし社内預金が優先的破産債権にあたるのであれば、必要がないことです。しかし、賃確法においてこのような定めがあるということは、社内預金が優先的破産債権ではないためであると考えられます。
② 一般の先取特権等の一般の優先権がある破産債権は、優先的破産債権として扱われます(破産法98条1項)。そして、「雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。」(民法308条(旧商法295条)その定めがあります。
しかし、社内預金の預入は、希望者の任意によるものであって、雇用契約を契機とするものではありませんので、現民法308条(旧商法295条)の「雇用関係に基づいて生じた債権」にはあたりません。
よって、社内預金は、優先的破産債権とはならないということになります。
なお、賃確法によって、社内預金は払い戻しを受けられることになりますが、全額が払い戻されるとは限りません。なぜなら、賃確法により保全措置を講ずべきとされている貯蓄金の額は、毎年3月31日現在における受け入れ預貯金額の全額であり、その後、預貯金額の増減があっても法律上保全すべき貯蓄金の額には影響しないからです。
社内預金をするかしないか、よく考えてみる必要がありそうですね。