1.はじめに

 破産法15条1項は、「債務所が支払不能にあるときは、裁判所は、……申立てにより、決定で、破産手続を開始する。」と規定しています。
 では、支払不能とは、いかなる場合を指すのでしょうか。

2.事案の紹介

 X(抗告人)は、Y(相手方)他の債権者に対し、約620万円の債務を負担し、支払不能の状態にあるとして、破産宣告(現行法でいう「破産手続開始決定」を受けました。Xは、①支払停止をしていない、②財産、収入、社会的信用があり、支払不能ではない等として、抗告を申し立てました。

3.決定要旨

「裁判所は破産事件の審理に当り債務者が支払不能の状態にあるものと認めるときは、支払停止の有無の点につき判断するまでもなく破産を宣告すべきものである。本件においては債務者たる抗告人は後記説示のとおり支払不能の状態にあるものと認められるから、抗告人が支払を停止したか否かの点は判断の必要をみないのであり、原決定も抗告人が支払不能の状態にあるものと認めて破産宣告をしているのであつて、支払停止の有無につき判断を加えているわけではない。従つて抗告人の主張はすでにこの点において採用し難いのみならず、証拠によれば、抗告人は昭和二十八年八月当時においては、相手方以外にも他に多額の債務を負担して金融逼迫し、同年八月三十一日三和銀行神田支店を支払銀行とする金額四百十七万円の約束手形を不渡りにしたため遂に銀行取引の停止処分を受けるに至つたことを窺うことができる。従つて抗告人にはその頃支払停上の行為があつたものと認められるので、抗告人の主張は理由がない。

 ……およそ支払不能とは、債務者が一般に金銭債務の支払をすることができない客観的状態をいうのであつて、人の弁済力は財産信用及び労務の三者から成立するものと解せられるから、抗告人の所有する財産、その信用及び労務について順次検討してみる。」

4.解説

 この決定要旨から、裁判所は、支払不能を直接認定することができる場合には、支払停止の有無を判断する必要がなく、破産を宣告することができることが解りました。
 また、支払不能は、弁済能力の欠乏に基づくものであり、その判断は、財産、信用及び労務によって判断されます。これらのいずれによっても、債務を弁済する能力がなくなった状態が支払不能となります。

弁護士 大河内由紀