1 はじめに
はじめまして、弁護士の平久と申します。これからこのブログをご覧の皆さまに役立つ情報を提供して参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
今後数回に渡って破産手続における相殺権について記載します。そこで、初回の今回は、相殺の一般論や破産手続における相殺の意義、特色について説明いたします。
2 相殺について
相殺とは、お互いが同種の債権を有しているときに、双方の債権を対当額で消滅させることを言います。日常的な例でいえば、前日友人に借りた1000円を、今日の友人の昼食代1000円を自分が代わりに払うことでチャラにすることがあると思いますが、これが相殺です。
相殺には、簡易決済機能、担保的機能があるとされています。
簡易決済機能とは、一々債権を行使して取り立てる手間暇を省略できるということです。相殺をしなければ、借りたお金を返したり、貸しているお金を回収したりする手間や費用がかかってしまいますが、相殺すればこれらが節約できます。
担保的機能とは、相殺することで、自分が相手に対して有している債権を自動的に回収することができるということです。つまり、取りはぐれないで済みます。
3 破産手続における相殺
この相殺の担保的機能は、破産時において大きな意味を持ちます。
まず、破産手続においては、破産債権は個別的行使を禁じられている(破産法100条1項)ので、配当がもらえるまで一般に時間がかかります。しかも、後日配当が得られたとしても、それは債権額のほんの一部に過ぎないことが通常です。それに対して、破産者が相手方に 対して有している債権は全額取り立てることができます。とても不公平ですね。
そこで、破産法はこのような不公平を防ぎ、破産債権者の相殺の担保的機能に対する期待を保護すべく、破産手続中にも相殺を可能とする規定を置いています(破産法67条1項)。
4 破産法における修正
ただし、破産法独自の観点から、民法の相殺の要件に修正を加えている部分があります。
(1) 相殺権の拡張
民法上、相殺の要件として、自働債権(相殺を行う側が相手方に対して有する債権)と受働債権(相殺を行う側に対して相手方が有する債権)は、同種であり、ともに弁済期にあることが必要とされています(民法505条1項)。
しかし、破産法上は、非金銭債権であっても金銭債権と同様に金銭評価されたり(103条2項1号)、期限付債権でその期限が破産手続開始後に到来すべきものであっても破産手続開始決定時に弁済期が到来したものとされる(同条3項)など、要件を充足しやすくしており、破産債権者の担保的機能に対する期待に応えられるような手当がなされています。
(2) 相殺権の制限
一方、民法その他の実体法の制限に加えて、破産法独自に相殺権を制限している規定があります。
例えば、破産債権者が破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担した場合や、破産者に対して債務を負担する者が、破産手続開始後に他人の破産債権を取得した場合などは相殺することはできません(71条1項1号、72条1項1号)。このような者の相殺に対する期待は保護に値するものではなく、相殺を認めてしまえばかえって債権者間に不公平が生じてしまい、破産法の趣旨を潜脱するような結果になってしまうからです。
今回は一般論になってしまいましたが、次回からは、破産手続において相殺権が問題となった具体的な判例をご紹介したいと思います。
以上
弁護士 平久 真