破産手続開始にあたっての判断要素~裁判例による具体的な運用の概観

 


 破産申立には、債務者自身が債務の弁済が不能であることを自認して申し立てる場合(「自己破産の申立」)の他、債権者が、自己が債務者に対して有する債権を(破産者の有する資産の換価により、強制的に)満足させるために申し立てる場合(いわゆる「債権者破産」の場合)があります。

 債権者破産については、このブログでも過去に取り上げておりましたとおり、広い意味で、債権の回収をする手段と位置づけられます(特に確信的に債務を履行しない債務者に対して強制的にその資産を売却させ、配当をうけることにより、当該債権の満足を受けることができるという意味で、強力な債権回収手段となりえます。ただし、現実には、債権者において債権者破産を申し立てるざるをえないほど支払いにゆとりのない債務者の場合は、その主要な財産は多くの場合、抵当権などの担保権の設定がなされており、担保権の優先順位の高い債権者から優先的に債権回収がなされるのが通例で、その外の一般債権者に対する配当は、よくてせいぜい10%程度ということが多いようですが)。

 

 ここでは、特に債権者破産が申し立てられた場合、裁判所がどのような要素を考慮して破産手続きの開始を決定するのか、裁判例により概観してみます。

 破産手続の開始要件は、破産法1条により、その負う債務の「支払不能」または「債務超過」であることとされています。

 では、具体的には、いかなる場合に「支払不能」または「債務超過」とされるのでしょうか。以下では個々の要件ごとに、裁判例を検討してみます。

 

(1)「支払不能」について

 

 債権者の申立により、破産手続開始決定を受けた債務者が、自己には財産及び信用による弁済能力があるとして、裁判所のした破産手続開始決定に対して取り消しの抗告をおこなった事案において、裁判所は、「支払能力の有無」を判断するに当たり、「現に有する財産、労務による収入、信用による支払能力を総合して判断する」旨を判示しました(東京高裁昭和33年7月5日決定。傍線引用者)。

 この事案において抗告を申し立てた債務者は、「株式会社日本興業銀行の理事、総裁を経て・・(中略)・・・大蔵大臣・・・等を歴任し、中央大学や慶應大学において教鞭を執ったこともあり、法学博士の学位を有するいわゆる名士である・・・」という人物でしたが、裁判所は、破産手続開始決定時点ではその信用を失墜し、郷里に有していた不動産を売却処分するに至っていたことを認定して、(破産申立時、同開始時)現在においては、その信用による支払能力はとりたてて論ずるほどのものでないとして、債権者破産の手続開始を支持しました。

 そのほか、支払不能を直接判断した事例として、「財産があっても換価困難な場合は支払能力は認められない」とした事例(名古屋高裁決定平成7年9月6日)、財産がなくとも労務や信用による弁済能力が認められて支払能力があるとされた事例(東京高裁決定昭和34年