皆様、こんにちは。本年もよろしくお願い申し上げます。

1 イントロ

 先週、学校法人大原学園が司法書士試験向けテキストに我妻栄先生(故人)らが執筆された「民法」の文章を無断で使っていたというニュースを見ました。
 我妻先生は私たち法律家であれば誰もが知っている著明かつご高名な学者で、戦後民法の礎を築かれたとされる方です。今回は「ダットサン」などと愛称が付けられるまでに有名なテキストの記載のうち約3分の2を無断で引用してしまったようです。

2 引用をめぐる著作権

(1) 他人の著作物を利用するには、原則として著作者の了解を得ることが必要です。著作権法ではこの了解のことを「許諾」といいます。

著作権の具体的内容は多岐にわたりますが、代表的な権利を紹介しますと、著作物を無断で手書き、複写、印刷等されない権利を複製権(著作権法21条)といいます。1で紹介した大原学園のケースでは、我妻先生の複製権の侵害に該当すると思われます(故人であっても没後50年間、著作権は保護されています(著作権法51条))。

(2) ただし、原則に対して例外があります。すなわち、権利者に無断で利用することが許される場合が法律上規定されているのです。

例えば、「私的利用」(著作権法30条)のためにコピー(複製)をする場合です。これは、視たいテレビ番組を自分で視るために録画するといったケースに代表されるように、仕事以外の目的で使う場合を指します。

 他にも「引用」(著作権法32条1項)という規定もあり、「紹介、参照、論評その他目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を録取すること」(最高裁昭和55年3年28日第三小法廷判決・モンタージュ写真事件)と理解されています。同判決には、「引用というためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」という説明もあります。

 1の大原学園の例をみると、私自身は実物を見ていませんが、もし約3分の2も引用しているのだとすると、当該最高裁判決のいう主と従の関係にあるとはいえないので、この無断引用は許されないと評価される可能性が高いと思われます。

 そのためか、大原学園側のマスコミ向けの発表は、(我妻先生の遺族に)誠実に対応したい、とのことです。

3 著作権ビジネス

今回のように、著作物が例外規定には当てはまらない形態で無断利用されている場合には、権利者は利用者に対して損害賠償請求(民法709条)、差止請求(著作権法115、116条)などの措置を執ることが可能です。

しかし、実際に、いつ、どこで自分の著作物が利用されているかを全て把握するのは困難といって差し支えないでしょう。

このため、例えば、楽曲でいえば(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)のような団体に権利関係(契約交渉など)の管理を任せ、窓口の一本化が進んでいます。

しかし、権利者はこのような団体に任せていれば大丈夫かというと、団体と利用者の交渉が折り合わず、訴訟へと発展しているケースもあるようです。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。