第3 株券が発行されている場合
1 株券を債務者が所持している場合
株券は有価証券であり、通常は裏書が特に禁止されている有価証券にはあたらないため、動産執行の手続をとることになります(民事執行法122条1項)。
これは稀なケースと思われますが、株券のありかを特定して、宝石等の物品同様な差押え手続をとる必要があります。動産執行の具体的手続は、今回は割愛します。
2 株券を証券会社等に預託している場合
株券等の保管および振替に関する法律(振替法)により、株券の所有者は、証券会社等の参加者に株券を預託し、参加者関与の下で顧客口座簿の開設を受けることができます。そして、株券の預託を受けた参加者は、これをさらに保管振替機関に預託することになります。保管振替機関には各参加者ごとに参加者口座簿があり、そこに株券の発行会社名、種類、株式数等の事項が記載されています(株券保管振替制度)。
このようにして口座が開設されると、預託されている株券の権利移転は、譲渡人の口座から譲受人の口座への振替によって行われます(振替法26条)。
株券保管振替制度の下での株式差押の申立の場合、第三債務者は顧客口座簿を備える参加者となります。
そして、差押命令の効力は参加者に送達されたときに生じ、これにより、債務者は預託株券の振替請求等の処分が禁じられ、参加者も預託株券の振替が禁止されることになります(民事執行規則150条の3、150条の5、民事執行法145条4項)。
陳述催告に関しては、株券保管振替制度の場合、裁判所書記官が職権で参加者に対して差押命令の送達に際して、催告するとされています(民事執行規則150条の5、民事執行法147条)。
預託株券の換価方法は、預託株券の譲渡命令、参加者に対する預託株券の売却命令、執行官に 対する預託株券の売却命令、執行官が預託株券の交付を受けてこれを売却する売却命令があります(民事執行規則150条の4)。執行官に対する売却命令等の手続は、主として参加者が証券会社以外の者であるため、売却について証券取引法上問題がある場合を想定したものです。