1 駆け出しの弁護士時代
私がまだ駆け出しの弁護士だったころ、こんなことがありました。
私の弁護士人生は、都内で企業法務を専門とする、ある法律事務所で始まりました。そこのボスである所長の弁護士は、仕事に関しては大変厳しい人でした。
ボスから叱られて、職員の女の子が泣きながらトイレに駆け込む姿を何度も目にしました。そんなボスでしたから、たぶん職員からはそんなに好かれていなかったのではないかと思います。
ある日、私が職員たちの休憩時間に、雑談まじりで「俺も早く独立したいなあ…」って言ったら、2人の女性職員が、「本当ですか。早く独立してくださいよ。先生なら立派にやれるはずです。私たち、そしたら先生についていきます!」って言うんです。普段からボスのことを愚痴っている子たちでしたから、私に対するリップサービスではなく、おそらく本気だったと思います。
2 嫌われることを恐れたら良い経営者にはなれない
若い女性職員から「私たち、先生についていきます」なんて言われたら、皆さんは嬉しいですか。
私は、そんなことを言われて喜ぶほど自分のことを暗愚な人間だとは思っていません。
おそらく彼女たちは、私だったらついていけると思っていたんでしょう。それはそうです。だって、私は彼女たちに親切でしたから…。別に下心があったわけではありませんよ。私が彼女たちに優しかったのは、私が経営者ではなかったからです。所詮は一介の勤務弁護士に過ぎません。当時の私には法律事務所の経営者としての責務なんてなかったんです。
「この子たち、何を言っているんだろう…。俺が独立してこの子たちを雇ったら話は別だ。勤務弁護士と職員の関係ではない。経営者と職員との関係になるのに、同じだと思っている…」
これが当時の私の感想です。
何も好き好んで職員から嫌われる必要はありませんが、経営者は職員から愚痴られて一人前だと思います。
もしも、私の職員が私のやりかたに愚痴を言い、うちの若い弁護士に、「先生、独立しないんですかあ。そしたら私ついていきますっ!」なんて言っているようであれば、私もやっと一人前です。