弁護士 金 崎 浩 之



意識改革 

 

1 不満のない組織は理想か

 私が初めて社会に出たのは17歳の時です。

 高校中退後、私は三鷹市内にある某印刷会社に就職しました。社長と奥さんと息子さんのほかにパートのおばさんが数名。そして、30代のベテラン職員1人と友人と私の3人が正社員でした。だから基本的には家族経営の会社ですね。

 まあ、当時の私としては不満だらけでしたよ。まず仕事がつまらない。思えば高校を中退して就職しているわけですから学歴は中卒。楽しくてやりがいのある仕事にありつけると考える方が間違ってるんですけど、とにかく仕事がつまらなかった。これが1番の不満でした。2番目の不満はというと、私は印刷工の助手として就職したんですが、どうやらずっと助手の仕事をしなければならなくなりそうだということが分かってきたんです。新入社員が入ってこないからです。小さな家族経営の会社ですから、誰かが退職するか会社が成長しない限り新人が入ってこない。パートのおばさんたちも、アルバイトとはいえみなさんベテランなんですね。だから、私が助手をやるしかない。助手の仕事は退屈ですよ。印刷物の上にゴミが付着していないかを探すだけです。ゴミのついた印刷物を出荷してしまうと不良品で返品されてしまうからです。そんな仕事で自分の将来が見えない。こんな仕事を永久にやるのか?これが2番目の不満でした。

 

 不満のない会社はある一見理想的に思えます。しかし、私が17歳からの社会人経験で観察したところによると、職員に不満がない会社は希です。まあ、“理想”なのですから現実には不満のない会社なんて存在しないと言ってしまえばそれまでですが、ここでおもしろい思考実験をしてみましょう。仮に、職員に不満のない会社を実現できると仮定して、それはどのような会社なのかという思考実験です。

2 &ldq uo;似て非なる”不満のない組織

 職員の不満を解消する手段は大別して2つあります。

 1つは、職員が自ら意識改革を行って、会社のため、組織のためになることが自分の利益になるのだという考え方に価値観を変えることです。言い換えると、職員が会社の期待に合わせることによって不満を解消する方法です。

 2つめはこの逆です。職員の不満を会社が聞き入れて職員の要求を満たすことによって不満を取り除くことです。言い換えると、会社が職員の期待に合わせることによって不満を解消する方法です。

 前者は理想的な組織ですが、後者は最悪の組織です。それはなぜか。

 まず、前者においては、経営者と職員が一丸となって同じ目標を共有し、同じ夢を実現させようという社風がなければ成立しません。前者では経営者と職員が同じベクトルを向いております。だから、経営者と職員の利害が一致し不満が解消されることになります。

 これに対して、後者の場合は最悪です。もし社長が職員の前で次のように宣言したらどうでしょうか。「みなさん、今日から嫌な仕事は一切やらなくて結構です。自分が不満に感じることは全て拒絶してかまいません。それから自分が納得できない組織のルールも守らなくてけっこうです。自分が納得できるルールのみ従ってください。私はこの会社から職員の不満を一掃します!」。さて、こんなことが起こったらうれしいなあと思うダメ職員もいるでしょう。しかし、もし経営者がこんなことを言い出したら、健全な職員の取るべき対応はひとつです。そんな会社、未来がないから1日も早く辞めることです。


3 1流の組織、2流の組織、3流の組織

 職員の不満という観点から組織の序列を設けるとすれば、次のようになります。

  1流の組織 経営陣・職員が同じ目標を共有し一丸となっているため不満がない組織。

 

  2流の組織 経営者と職員の利害が衝突し、職員が不満を持つ組織。

 

  3流の組織 経営者が職員に迎合し、職員の要求を受け入れているために、職員に不満がない組織。

 

ここで私が1流、2流、3流と言っているのは、会社の規模や知名度ではありません。言うまでもなく、組織は人材の集合体です。そして、組織を構成する人材の“志”のレベルから1流、2流とか呼んでいるのです。

1流の組織は経営者と職員が一丸となっているので強い組織です。しかも生産性も高いはずです。当たり前ですが、不満を言いながら仕事をするのと、自分の仕事に満足して働くのと成果が同じわけないですものね。

2流の組織では、職員の不満を抑えながら経営者のリーダーシップで何とか組織を方向付けています。このような組織の職員は、基本的に経営者の目標とか理念に関心がありませんので、経営者に必要な経営手法は“管理”です。ちゃんと仕事をするように管理するわけです。管理されて楽しい人なんていませんから、このような組織では多くの職員が不満を持ちます。それでも、3流の組織に勝っているのは、ちゃんと経営者が管理という手法で組織をあるべき方向に導いているからです。

3流の組織では、確かに職員の不満は解消できるかもしれませんが、実は、職員の全員が不満を解消できるわけではありません。まともな人はこのような組織から去っていきます。ぬるま湯組織が競争社会で生き残っていけるはずがないことを深く認識しているからです。また、真に力のある者にとって、やりがいのない職場です。こうして、有能なものが去り無能な人間が残り、組織は烏合の衆となります。そして、経営者は、この無能な人たちの集団の機嫌をとりながら経営の舵取りを余儀なくされます。

 

 ここまでくると、段々真相が見えてきました。1流の組織にすることは経営者にとって永遠のテーマです。組織のベクトルを合わせることはなかなか容易ではありません。

 3流の組織は、企業として存続できません。だから、やっぱり存在しません。

 したがって、落ち着くところは2流の組織ということになります。

でも諦めてはいけません。理想は1流の組織にすることです。そして、1流の組織に成長したとき、組織からあらゆる管理が消滅するでしょう。このような組織は強固な信頼関係で結びついているので如何なる管理も不要だからです。理想とは言うけれど、実は簡単なことなんです。考え方を変えるだけでよいのですから。考え方が変われば、行動も変わる、人間関係も変わる、仕事のやりがいも変わるんです。