1 前回のおさらい

 昨日のブログで従業員との間における競業避止契約の有効性について、公序良俗違反を理由に無効とした判例を紹介しました。

 もちろん、退職後の競業行為を禁止する競業避止契約の有効性です。在職中に競業避止義務を負わせるのは当然ですから、問題となるのは、あくまでも退職後です。

 無効と評価された理由は、

1)労働者の転職・職業選択の自由を奪う。
2)在職中は給与をもらっているが、退職後には対価をもらえないのに不利益を課されている。
3)そもそも雇用主と従業員の交渉力が異なり、従業員の自由意思とは思えない。

という点でした。

 しかしながら、従業員との競業避止契約を有効とした判例もありますので、今回はその判例を紹介します。

2 有効要件

 この判例は、上記のような問題点をした上で、会社側の必要性にも配慮して、競業避止契約が有効となるための要件を述べています(フォセコジャパン事件・奈良地判昭和45年10月23日、詳細は判例時報1618号78頁を参照してください)。

 具体的には、

1)競業行為を制限している期間はどのくらいか
2)競業行為が制限されている地理的範囲はどのくらいか
3)競業行為が制限されている職種の範囲はどの程度か
4)退職した従業員に代償を与えているか否か

 1)については、言うまでもなく短ければ短いほどよいです。5年だと長いです。3年も微妙です。実務的には3年程度の契約書を作成している会社が多いようですが、私としてはできれば1年程度、長くても2年程度にとどめるべきだと思います。元従業員が競業行為に出る場合、比較的短期間のうちにやられますので、1年程度でも十分ではないでしょうか。

 2)と3)については、当然ですが狭ければ狭いほど良いということになります。
しかし、どの程度の範囲が妥当かということは、業界や職種によっても異なりますので、一概には言えません。
重要な視点は、会社にとって必要最小限にとどめることです。欲張って範囲を広げると命取りになります。

 4)は、競業避止義務という不利益、その結果、転職等が自由にできないという不利益を従業員に対し、それらの不利益に対する対価を与えているか否かです。要するに、お金を渡しているかどうか。名目は、退職金でも何でもかまいません。渡している場合、その金額は退職する従業員の不利益に見合っているかどうかがポイントとなります。

 この4つの要件は、全部満たしていなければならないというものではありませんが、4)の代償の有無は重要で、これを欠くと裁判になったときに、敗訴リスクが高まりますので注意してください。

3 フォセコジャパン事件

 この事案では、競業行為の禁止期間は2年間でした。制限の対象となった職種は、化学金属工業の特殊な分野に限定されていたようです。
 もっとも、地理的には無制限でした。地理的範囲を全く制限していなかったのです。
 代償について、退職時に何らの対価を支払ってはいなかったようですが、在職時に機密保持手当という形で特別手当を支払っていたということです。

 この事件では、会社側が勝ちました。  制限期間の2年間は比較的短期であるという評価をされ、また、特殊な分野に限定されていたので、対象範囲も狭いと判断されたようです。
 代償については、退職時に支給していませんが、在職時の機密保持手当が実質的に競業避止の対価と評価されました。
 問題は、地理的範囲が無制限だった点ですが、この事案では、退職した元従業員の持つ企業秘密が、会社の技術情報だったという事情が考慮されています。技術情報なので場所を制限してもあまり意味がありませんから。
 したがって、地理的に無制限だったこの事案で会社が勝てたのは、あくまでも例外だと考えたほうがよいでしょう。