1 現状把握

 事業再生を検討する場合、まず現状把握から始まります。現状を把握せずに、いきなり民事再生手続をやろうとか、私的整理で行こうとかいう話にはなりません。 最近は、マスコミの報道などを通じて、事業再生スキームに関する一定の知識をお持ちのクライアント企業も珍しくなく、最初から「民事再生手続きをお願いしたい」という内容のご相談を受けることがあります。
 しかし、そもそも現状把握なくして再生スキームを選択しようがありません。まずは、現状を的確に把握することです。ここで手を抜いて間違ったスキームを選択してしまうと、せっかく再生できる事業だったのに再生計画が失敗に終わってしまうということも十分あり得ます。

 事業再生に際しての現状把握は、通常、次の3つの分野のデュー・ディリジェンス(DD)を通じて行われます。

1)ビジネスDD
2)財務DD
3)法務DD

 DDとは、要するに、そもそも再生できる事案なのか、再生可能性がある場合そのための課題は何かを分析することです。かかる分析をビジネス、財務、法務の3つの側面から多角的に分析するわけです。
 事業再生といっても、経営破綻に至った経緯やその傷口の深さはまちまちです。私は、事業再生の適否を検討する場合、以下の通り、癌の進行度と同じように、企業の破綻レベルを4つの段階に分けて診断しています。

ステージ1 小規模なリストラ、コスト削減策、借入金のリスケで再生できる案件
ステージ2 中・大規模なリストラ等の大胆なコスト削減策や金融機関の一部債権カットが必要な案件。
ステージ3 抜本的な組織変更(会社分割、M&A、事業譲渡など)を実施しないと再建が困難な案件。
ステージ4 民事再生法や会社更生法を活用しないと、再建が困難な案件。

2 スキーム選択

 スキーム選択をするに当たっては、次のような事情を考慮しなければなりません。

1)資金繰りは大丈夫か

 これは再建の可能性にも影響するだけではなく、緊急性にも影響します。どの事業再生スキームを選択するにしても、その手続きには一定の時間を要すますので、資金繰りに問題がある場合には、再生スキームに耐えうるように、適切な止血措置をほごこさなければなりません。

2)会社の再建を目指すのか、事業の再生で足りるのか

 これも重要なファクターです。ご依頼者は、事業再生=会社の再建と捉える傾向がありますが、「事業」の再生と「会社」の再建は違います。会社の再建は、文字通り死にそうな会社を蘇生することです。しかし、事業の再生はそうではありません。会社自体は助けられなくても、特定の事業だけ取り除いて再生するということができるからです。例えば、経営破綻したある会社の破産は免れないが、その中に利益を出しているな事業がある場合に、その事業だけ切り離して別の会社に譲渡してしまうこともできます。この場合、会社は再建できませんが事業は再生することができます。

3)自主再建を目指すのか、スポンサーに頼るのか

 これは、再生スキームの選択だけではなく、再生の成功自体の鍵を握る重要なファクターです。
 少なくとも、現状の実務を見る限り、事業再生を成功に導けるケースの多くはスポンサー型です。これは、再生事案として専門家のところに案件が持ち込まれた場合、破綻の程度が深刻で末期症状にあるケースが多いからです。企業経営者も、末期症状に陥るまで、何とか自分たちで再建させようと努力する傾向があるため、なかなか経営破綻要因の「早期発見」に至りません。このことが結果的に、再生スキームの選択肢を狭めています。

4)金融機関の協力を期待できるか

 これも事業再生の成功の鍵を握る重要なファクターです。というのは、多くの私的整理スキームや民事再生手続では、大口の債権者である金融機関の協力が不可欠だからです。スキーム選択に際しては、金融機関としっかり協議を重ね、理解と協力を得なければなりません

5)取引先の理解と協力は得られるか

 そのほかにも、重要な仕入れ先や取引先の理解を得られるかも重要です。事業再生手続きに移行した結果、仕入れ先や取引先が次々と離反してしまっては、事業の継続ができません。事業再生という以上、事業を継続できることが大前提です。

6)税金の滞納はあるか

 実は、事業再生を行う場合、この租税債権が大きなハードルになることがあります。というのは、税務当局は一般的に言って、必ずしも事業再生に前向きとは言い難いからです。彼らの利害は、税金を徴収することにあり、事業の再生は二の次です。滞納している税金がたくさんあると、大きな壁になります。

 いずれにしても、病気と同じように早期発見が最も有効な解決策です。なるべく、早めに専門家に相談することをお薦めします。