1.第二会社方式とは

 第二会社方式とは、例えば、経営破綻したX会社がA事業とB事業の2つの事業を業務内容としていたとします。
 X会社の事業全体としては営業損益が赤字のため、事業再生も難しく破産するしか方法がないとしましょう。
 しかし、事業別に内容を見ると、A事業部は営業利益が出ているが、B事業部が大幅な営業赤字で、これが足を引っ張って会社全体の営業損益を赤字にしているというケースが珍しくありません。つまり、わかりやすく言うと、会社が経営破綻していても、その中にちゃんと利益を出している優良な事業が含まれているというケースです。
 このような場合に、せっかくA事業部はうまくいっているのに、X会社を破産させてしまったために、A事業部も含めて葬ってしまってはもったいないですよね。
 そこで、A事業部を残して、残りの事業だけを破産させる方法があるのです。このケースですと、B事業部だけの破産となります。

 具体的にどうするかを説明したいと思います。
まず、Y会社という別会社を設立します。次に、X会社がY会社にA事業部が取り扱っている事業だけを譲渡します。いわゆる「事業譲渡」です。
 そうすると、X会社にはB事業部だけが残ります。そこで、X会社を破産させます。
 結果として、A事業については、Y会社が業務を行うことによって、生き残ることができます。もちろん、民事再生等の手続をとる必要もありません。
 このとき当然ですが、事業譲渡に伴って、Y会社に借入金等の負債も一緒に譲渡してはいけません。あくまでも、負債はX会社に残します。Y会社に移す負債は、事業譲渡に伴う取引先に対する買掛金くらいです。

2.メリット

 この第二会社方式には、次のようなメリットがあります。

・営業利益が出ているA事業を救済できる。
・A事業に属する従業員の雇用や取引先を守れる。
・銀行からの借入債務をX会社に残せるので、Y会社は有利子負債なしで好調なスタートを切れる。

3.注意点

 このときに、最も注意しなければならないのは、事業譲渡の対価です。
 X会社に対して債権を有する債権者からすると、突然X会社の優良部門が消えてなくなってしまい、夜逃げにあったような気持ちになります。債権を回収しようと思っても、当てにしていた優良部門が別の会社に譲渡されてしまったため、債権回収の目処が立たなくなるからです。
 したがって、この場合に債権者が取り得る法的手段は、詐害行為取消です。すなわち、X会社のY会社に対するA事業の譲渡を詐害行為であるとして、X・Y間の事業譲渡を取り消してしまうのです。これが裁判で認められると、A事業はX会社に戻ってしまいます。
 また、このスキームでは、X会社の破産が予定されています。破産宣告が出ると、裁判所により破産管財人が選任されます。
 そして、破産管財人に否認権を行使されて、この事業譲渡が否認されると、やっぱりA事業はX会社に戻ってしまいます。

 このような事態を避けるためには、事業譲渡の対象となるA事業を適正に評価し、適正な価格で譲渡することです。
 そうすると、Y会社からX会社に事業譲渡の対価が支払われることになります。X会社はA事業を失いますが、その代わりに対価を得ます。言い換えれば、X会社にとってA事業がお金に換わるわけですね。事業の価値に相当するお金があるわけですから、債権者も破産管財人もそれを当てにすればいいわけです。結果において、債権者と破産管財人には損害はないわけです。
 もしも無償で事業を譲渡したり、適正な価格よりも著しく低い価格で譲渡してしまうと、後で債権者や破産管財人による詐害行為取消や否認権の行使によって紛争になります。そうならないためにも、しっかり適正な評価をして適正価格で譲渡してください。

4.適正価格とは

 もっとも、いくらが適正価格なのかは難しい問題ですよね。
 しかし、この評価方法については、幸いにしてM&Aの分野で実務ではかなり進歩しているので、有効な評価方法があります。
 その評価方法としてはいくつかありますが、私は収益還元法を使って評価するのが合理的だと思います。
 なお、事業譲渡の透明性を高めるためにも、弁護士や税理士等の専門家を関与させたほうがよいでしょう。