前回の記事はこちら:貸し渋り・貸し剥がし対策講座(2)
預金拘束・歩積み・両建て預金への対抗策
1.預金拘束-銀行の言い分
銀行がその貸付先である顧企業の預金を突然拘束してしまうことがありま す。これをやられると、銀行に預金してある資金が凍結されてしまいますから、取引先への支払いができなくなっていまいます。どうしてこのようなことをするのかというと、銀行の顧客に対する貸付債権が不良債権化して回収不能になることを防ぐためです。
これをやられた企業はたまったものではありませんが、銀行は、旧銀行取引約定書4条を根拠にしています(銀行がこれまで横並びで使用していた旧銀行取引約定書は現在廃止されていますが、どこの銀行も自前の銀行取引約定書をもっています)。同条には、「債権保全を必要とする相当の事由が生じたときは、請求によって、直ちに貴行の承認する担保もしくは増担保を差し入れ、または保証人をたて、もしくはこれを追加します」と書いてあります。
しかし、この条文を銀行側が顧客に知らせずに突然預金を拘束することまで認めた趣旨だと解釈するのは、あまりにも飛躍しています。旧大蔵省通達も自粛を求めていますので、もし預金拘束されたら厳重に抗議する必要があります。
2.歩積み・両建て預金
預金拘束のほかに歩積み・両建て預金という手口もあります。預金拘束ではあまりにも露骨なため考案されたテクニックです。
歩積みとは、手形割引の際に割引額の一部を預金させることをいいます。一部は預金させられていまいますので、実際に運転資金にまわせる金額は目減りします。また、両建て預金とは、手形貸付・証書貸付の際に、貸付額の一定額を定期預金させることをいいます。借り入れたお金の一部は、事実上定期貯金することを強制されてしまいますので、受け取るお金は目減りします。でも、当然ですが、金利は受け取ったお金ではなく、借り入れた金額全体に対してかかりますので、契約した金利よりも実際に高い金利を支払わされるのと同じになります。「定期預金しているのだから利息がついているではないか」という意見もあると思いますが、定期預金の金利よりも、銀行が貸し出す際の金利の方がずっと高いに決まっていますから、理由になっておりません。いずれにしても、受け取ったお金しか運転資金にまわせないのに、額面を基準に金利を稼ごうというのですから、悪質です。
預金拘束と並んで、旧大蔵省・金融庁も歩積み・両建て預金の自粛を求めています。また、公正取引委員会は、銀行が貸し手という強い立場を利用して両建て預金を強いるのは、優越的地位の濫用であり、不公正な取引方法に当たるとの立場を示しています。
3.対抗策
預金拘束に関しては、リスケの要請をする前に予め預金を解約したり、普通預金・定期預金から当座預金に移すといった対抗策が考えられます。当座預金口座は、手形決済などに使う大事な口座ですから、さすがにこれを拘束するわけにはいかないでしょう。
しかし、歩積みや両建て預金に関しては、これを拒絶すると、銀行が手形割引に応じてくれなくなったり、また、貸付を断られる羽目になっていまします。まさに、公正取引委員会が指摘するように、銀行の優越的地位の濫用です。手形割引や貸付を断られるのが怖いので、しぶしぶ応じてしまうという背景があります。したがって、預金拘束に対する対抗策を事前に講じておくことができません。取り得る手段としては、金融庁などの公的機関に苦情を言うしかないと思います。
私としては、金融円滑化「大臣目安箱」に相談することをお薦めします。個人的に親しくしている金融機関関係者の話では、銀行はこれをかなり嫌がるようです。電話番号を下記に記載しておきます。直接そちらにお問い合わせください。
金融円滑化「大臣目安箱」03(3501)2100
なお、歩積みや両建て預金だけではなく、貸し渋りや貸し剥がしに関する相談や苦情も処理しているようですので、是非利用してみてください。