1 賛否両論

 マスコミの報道などで皆さんもご存じだとは思いますが、政府は、中小企業向け融資の返済猶予を柱とする「中小企業金融円滑化法(仮称)」を臨時国会で成立させることを目指しているようです。
 この法律が成立することは、経営難に陥っている中小企業にとってプラスであるようにも見えますが、本当にそうかは議論の余地があります。

 この点に関し、帝国データバンクが調査したところ、25.5%が賛成であると回答したのに対し、38.3%の企業が反対であると回答したそうです(2009年12月5日付帝国タイムス)。反対している企業のほうが多いんですね。

 一見すると、この法律の成立によって助かる中小企業経営者は少なくないと思います。
 しかし、そうなれば、その反動として今よりもずっと深刻な貸し渋りが生じる可能性が高くなると思います。金融機関だって、企業としての責任があります。返済される見込みの薄い不良貸付を行うわけにはいきません。

 先の帝国データバンクの調査で「反対」と回答した企業も、その理由として将来の新規融資への影響を懸念しているというものが多かったとか。

2 問題の整理

 おそらく、マクロ的には弊害のほうが大きいと私は見ています。
 というのは、市中の金融機関も自分たちが経営破綻するわけにもいきませんから、返済猶予が敢行されたために滞ったキャッシュの穴埋めに、新規融資を見送るということは十分起こりうるシナリオで、そうなればより深刻な貸し渋りが発生することになるからです。
 その結果生ずる日本経済全体への影響を考えると、本当に良かったのかという疑問が残ります。

 しかし、ミクロ的に見ると、この法案が通ることによって、とりあえず差し迫った経営破綻の危機を乗り越えられる(仮にそれが一時的であっても)という状況にある企業も少なくないはずです。
 このような企業の利害状況下からすると、この法案が成立しなくても追加融資を受けられる見込みは著しく低いでしょう。そうすると、この法案が成立しようがしまいが、将来の融資に関してはあまり利害がないんです。
 それよりも、今ある有利子負債の返済が楽になれば、当面の危機を乗り越えられるという事情にあるならば、むしろ返済猶予を得られた方がよいと考えている経営者は多いと思います。背に腹は代えられませんからね。目の前にある危機のほうが重大です。

 でも、経済活動って循環していますから、自分の会社が返済猶予を受けてホッとするのも束の間、取引先が融資を受けられなかったために倒産してしまい、多額の売掛金債権が回収不能となり、結局連鎖倒産…なんていうシナリオは普通に起こります。
 やっぱり自社にとってのメリットだけではなく、経済全体に与える影響も考える必要があるでしょうね。