1年ほど前の話になりますが、新規事業の立ち上げで種類株式を使った定款の作成と設立登記の仕事をしました。

 具体的には、取締役選任権付株式、完全無議決権株式、それと種類株式ではありませんが、いわゆるVIP株と呼ばれる属人的株式を発行できるようにしたいというものでした。

 属人的株式という株式はとんでもない株式で、特定の株主だけ、他の株主とは異なる権利内容にできるのです。例えば、創業者が保有する株式だけ1株10議決権を有する、とかできてしまうわけです。本来、株主の権利は、人ではなくて、その”株式”ごとに権利内容が定まっているんですね。ところが、属人株式は、”誰がその株式を保有しているか”で権利内容が変わってしまうんです。なので、”属人的”と呼ばれます。しかも、この株式は種類株式ではないので、登記事項ではありません。したがって、第三者からはわからない仕組みになっています。まさに、創業者やその一族に絶大な支配力を与えるにはもってこいの株式なので、同族企業が多い中小企業がこれを利用しない手はありません。

 問題は、その先です。都内のある公証人役場で定款認証をしてもらおうとしたところ、種類株式と属人的株式について、「勉強時間をくれ」と公証人から言われてしまいました。ちなみに、その公証人役場では、種類株式を盛り込んだ定款認証は、”初めて”だったそうです。まだ話は続きます。定款認証が何とか終わり、いよいよ登記という段階になると、今度は法務局が右往左往して要領を得ないのです。担当者も初めてだった様子でした。最終的には何とか無事設立登記まで完了できましたが、私は別に公証人や法務局を非難しているわけではありません。この経験から、種類株式や属人的株式が、まだまだ普及していないことが実感できたのです。種類株式の中には、株式譲渡制限がなされている閉鎖会社でないと使えないものもあります。要するに、上場企業では発行できないものも少なくないのです。したがって、極論を言えば、中小企業こそ種類株式を活用するニーズがあるはずなのに、多くの中小企業が顧問弁護士を持たないために、専門家のアドバイスを得る機会がないんだろうなと痛感しました。

 中小企業の法務を重視している弁護士法人ALGとしては、何とかこの種類株式、属人的株式を普及させたいと思います。