経営判断の原則とは、裁判所は経営判断には事後的に介入しないというルールのことです。経営判断には、将来の不確実な要素についての判断が不可避であり、合理的な手続に従ってなされた経営者の判断について、その結果として生じた損害について事後的に責任を認めることは、いわゆる結果責任を問うこととなり不当であることから認められたものです。

 具体的な要件としては、①経営判断を下す判断過程に不注意がないこと、②経営判断の内容自体に不合理な点がないことが挙げられます。

 裁判例でも、経営判断の原則に言及したものがあります。百貨店を営むA社が、海外事業の一環としてトルコへの出店を計画し、現地法人であるB社に対し、出店用地の買収のとりまとめを依頼しました。A社は、B社に土地買収のための資金を貸し付けましたが、結局土地の買収は成功せずに出店は断念されました。B社に貸し付けた資金は一部しか回収できず、A社は大きな損失を被りました。

 かかる事案につき、裁判例(東京地裁平16.9.28)は、

「企業の経営に関する判断は不 実かつ流動的で複雑な多様な諸要素を対象にした専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする綜合的判断であり、また、企業活動は、利益獲得をその目標としているところから、一定のリスクが伴うものである。このような企業活動の中で取締役が萎縮することなく経営に専芯するためには、その権の範囲で裁量権が認められるべきであるしたがって、取締役の業務についての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不口理と評価されるか否かによるべきである。」

として結果として、取締役の義務違反を否定しました。

弁護士 大河内由紀