相談内容

 私は無類のラーメン好きで、それが高じて10年程前に脱サラし、修行のために有名ラーメン店で働いていました。3年程前、そろそろ自信もついてきましたし独立しようかなと考えていたタイミングで、偶然にも駅近で立地条件抜群のビルに空きがあるのを知りました。「これはチャンス!」と思って、すぐに契約して、念願のラーメン屋をオープンさせたのです。当初は、客足もまばらだったのですが、知人のコネでTVで紹介してもらったこともあり、売り上げも徐々に上がっていきました。

 ところが、そんな矢先、ビルの管理人を名乗る人物が突然お店に来て、「この店舗は定期賃貸借ですから今月で契約は終了します。」などと言ってきて、立ち退きを要求してきました。お店も徐々に軌道に乗ってきているところですし、内装にかけた費用も回収できていない状況なので、絶対にお店を続けたいです。何とかならないのでしょうか。

回答

1.民法における賃貸借契約

 賃貸借契約では、一定の期間が経過すれば、当然に借りた物を返還しなければなりません。もし、借主が、一定の期間経過後も同じ物を借り続けたいのであれば新たに賃貸借契約を締結しなければならないわけです。

 民法は、「賃貸借の存続期間は、更新することができる」(民法604条2項)と規定するのみで、どんなに借主が同じ物を借り続けたいという希望を持っていたとしても、貸主の了承が得られなければ、当然には賃貸借契約が継続しないという考え方を採用しています。

2.民法の賃貸借の例外としての借地借家法

 このような民法の考え方からすると、借主は、非常に弱い立場に立たされていることがわかります。

 ところが、立場の弱い借主をそのまま放置することは社会政策上好ましくないという配慮から、不動産借主の立場を強化した借地借家法が定められました。

 借地借家法26条・28条では、建物賃貸借は、更新されることが原則とされ、かつ、貸主がその物を使用する必要がある場合や借主に対し立退料を支払うという特殊事情(「正当の事由」)がなければ、貸主は契約の更新を拒絶できないというルールが定められ、借主の立場が強化されているのです。

3.「例外の例外」としての定期賃貸借制度

 しかし、借主の地位を強化しすぎると、反対に、不動産オーナー(貸主)は不動産を貸すことを躊躇しますし、これが原因となって、かえって賃貸物件の円滑な供給が阻害されることになりかねません。

 このような理由から、借地借家法は、言わば「例外の例外」として「更新がないことを前提とした賃貸借契約」というカテゴリーの契約(定期賃貸借契約制度)を設け、貸主と借主の立場の調整を図っています。

 定期賃貸借契約が締結された場合には、契約期間の満了に伴い、有無を言わさず賃貸借契約は終了することとなります。

 この場合、借主は、「予め更新がないことについての説明を受け、期間満了したらすぐに出て行かなければならないことを承知の上で契約している」とされるので、たとえ当該物件を使い続けたいと思っても、再契約がなされない以上、退去しなければならなくなってしまいます。

4.回答

 というわけなので、定期賃貸借という契約であることをわかって契約してしまった以上、基本的には退去しなければならないでしょう。

 もちろん、借地借家法38条3項が「建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。」と規定していますので、それを根拠に「説明が不十分だから更新だ!」と主張する方法や、「権利濫用だ!優越的地位の濫用行為だ!」と主張する方法もないわけではありませんが、実効性は疑問です。

 それよりも、契約書をよく読んで、交渉段階で普通賃貸借や定期賃貸借でも期間を長くしてもらう等の交渉しておくべきでした。スピード出店する決断力は素晴らしかったと思いますが、今後はこのあたりの契約管理をきっちりやりましょう。

弁護士 細田大貴