ご相談の事例では、エアコンだけではなく、家具家電なども貸していたにすぎないということですので、原則として、賃貸借契約が終了したときには、返却を求めることができます。しかしながら、こういったトラブルの根本的な原因は、賃借人としては、借りているという意識がなく、もらったものだと思い込んでいるという点にあります。
仮に、賃貸人が賃借人に対して入居時に自由に処分することや持っていくことを認めていた場合、どのような結論になるでしょうか。法的には、賃貸人から賃借人に対して、備え付けた家具家電が贈与されたということになるでしょう。贈与されたとすれば、賃貸借の対象からは除外されたうえで、所有権が賃借人に移転されますので、賃借人が持っていったとしてもお咎めなしという結論になります。したがって、賃借人の言い分が認められた場合には、返却を求めることができなくなりますので、貸したときのやりとりや客観的な状況が重要となってくるでしょう。
今回のご相談における重要なポイントは、賃貸人が賃借人に対して贈与する趣旨の発言を行ったのか否かという点にあります。賃借人がこれを立証できなければ、賃貸人は家具家電を返却してもらえるということになります。
賃貸人としては、このようなトラブルを避けるためには、家具家電付の居室を貸す場合には、賃貸物件だけではなく、備え付けの家具家電の内容を賃貸借契約書の対象物として明記しておくことや、贈与ではない趣旨を明確にするために、家具家電が貸与されたものであることの確認書面を受領しておくなど、賃借人の勘違いに備えた書類を準備しておくことが必要と考えられます。このような書類は、退去確認の際に、どのような家具家電を置いて退去するのかということを確認するためにも重要な資料となりますし、第三者が退去確認を行う場合や強制執行を実施する場合においても、残しておくべき物品が明確になるというメリットもあります。
また、今回の場合は、家具家電自体が比較的高価であることも、通常であれば第三者に無償で与えるようなものではないと認められる可能性もありますので、家具家電の価値という点も贈与を否定する要素として役に立つと思われます。
賃貸人の立場としては、上記のような準備を整えたうえで、贈与を受けたという賃借人の言い分が事実とは想定できないことを明らかにして、返還請求を行っていくことが適切な対応であろうかと思われます。