⑴ 無言で逃走パターン

 この場合、刑法上の犯罪は成立しないと考えられています。
前述のとおり、詐欺罪が成立するためには、財物や利益の交付に向けた欺く行為が必要なところ、無言で逃走したような場合には、この欺く行為がないと考えられるのです。また、窃盗罪は、売買代金債務のような「利益」を処罰対象としていないため、窃盗罪にもあたりません(利益窃盗と呼ばれています)。

⑵ 後で必ず払いますパターン

 飲食店の店員に対して、「後で必ず払います」などと言って、代金の支払いを免れた場合、詐欺(利得)罪(刑法246条2項)が成立する可能性があります。
 売買代金債務という「利益」の交付、つまり支払請求の猶予に向けた欺く行為があり、かつ、店員には利益の移転についての認識(処分行為)があると考えられるからです。

⑶ ちょっとタバコ吸ってきますパターン

 この場合、虚偽の事実を言って、売買代金債務の支払いを免れているため、パターン⑵同様、詐欺罪が成立するとも思えますが、厳密に考えると、詐欺罪にはあたらないと考えられます(ただし、詐欺罪が成立すると考える見解もあります)。

 詐欺罪の成立には、財物や利益の交付に向けた欺く行為・それに基づく処分行為があることが必要です。ところが、「ちょっとタバコ吸ってきます」などと言って逃走してしまった場合には、店員は、「この人はタバコを吸ったらすぐ戻ってくるんだな」という認識しかないわけです。したがって、利益の終局的移転、つまり、今回では売買代金の支払い請求権を猶予することについての認識(処分行為)がないと考えられているのです。

3.無銭飲食についてのまとめ

 無銭飲食も、厳密に考えていくと結構複雑だと分かっていただけたでしょうか。なお、以上の話は、あくまで刑事事件についてのものですので、刑法上、犯罪が成立しない場合であっても、民事上、売買代金債務は負っています。そして当然ながら、当ブログは無銭飲食を推奨するものでもありません。
 くれぐれも無銭飲食はしないように・・・。

(2016年9月1日加筆修正)