今回は、逮捕・勾留されていない在宅被疑者が、ある日警察から呼び出しを受けたケースに関して、少し説明したいと思います。
捜査機関は必要があるときは、被疑者の出頭を求めて取り調べることができるが、被疑者は出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる(刑訴法198条1項)、という規定があります。
このような規定を見ると、警察の呼び出しに対して一切応じなくても問題ないと思ってしまうかもしれませんが、実際はそうとは言い切れません。

出頭に応じない場合には、逃亡のおそれがあるとして逮捕されてしまう場合もあります。ですので、出頭の義務がないからといって、出頭を理由なく拒み続けることは必ずしも得策ではありません。
ただ、出頭の要請に対して、どうしても都合がつかない理由がある場合には、その理由をきちんと警察に説明すれば、それだけで直ちに逮捕手続をとられる可能性は低いでしょう。
出頭するか否かの判断は難しいところではありますが、警察官の呼び出しを拒否するのであれば、少なくとも何らかの理由を示すことが無難です。

出頭後の取調べは長時間に及ぶこともあります。長時間の取り調べは、心身ともに非常に疲弊することから、警察の言うことに不用意に迎合してしまう危険もあります。また、供述調書のチェックもおろそかになる危険も考えられます。そうなると、予期せず自己に不利益な供述調書が完成してしまうことにもなりかねません。
ですので、取調べがあまりに長時間になってきた場合には、捜査機関に対して、後日再度出頭することを伝えた上、明確に帰宅する意思を表示しましょう。

なお、出頭後の取調べにおいて、黙秘や否認をするのか、あるいは自白するのか等を含めて、どのような方針をとるのかは、やはり専門的な知識を有する弁護人に相談をして決定することが望ましいです。 弁護人を付けた場合には、警察に弁護人選任届を提出した上で、必要に応じて弁護人が警察と連絡を取ることもできます。ここで捜査機関の本件事件に対する考え方を把握し、逮捕の可能性がどの程度あるのかを判断してもらうこともできます。
在宅事件とはいえ、弁護人を付けることのメリットは少なくないでしょう。

弁護士 吉田公紀