刑事・民事問わず、裁判所には「管轄」という概念があります。
たとえば民事事件であれば、被告の所在地のほか(民訴法4条1項)、金銭請求は債権者の住所地のある裁判所で審理が行われますし(同5条1号)、不動産関係の事件であれば当該不動産の所在地を管轄する裁判所が担当になります(同12号。民事事件では管轄の例外がたくさんあるのですが、ここでは割愛します)。
刑事事件の場合は、民事事件よりも単純です。犯罪地または被告人の住居所等が管轄裁判所となり(刑訴法2条1項)、これに対応する検察庁が(検察庁法2条1項・5条)、司法警察職員、すなわち刑事さんらによる捜査の指揮をすることになります(同4条・6条、刑訴法193条)。
犯罪行為が発覚するのは犯罪地であることが多いでしょうから、そのような場合には、端緒を得た犯罪地の警察が捜査を行うケースがほとんどでしょう(犯罪行為の発覚時点では、犯人が誰であるかさえ分からないのが普通ですからね)。
そして、いったん警察が犯罪の嫌疑ありとして捜査活動を開始すると、他の都道府県警に捜査を移管することはあまり考えられません(他府県の警察本部に応援を要請することはあるようですが)。そのため、ある人が遠隔地に赴いて犯罪行為を行った場合、その人の居住地ではなく、犯罪地で捜査が進められ、同地の捜査機関により逮捕されてしまうことがあり得ます。
普段全然関係のない地域の警察官が突然やってきて、「●●県警です」と言って家に乗り込んでくるのですから、その驚きは計り知れないものがあるでしょう。
ところで、このように遠隔地の捜査機関から被疑者として捜査対象にあげられたとき、どの地域の弁護士を弁護人として選任するか、というのは難しい問題です。
在宅事件であれば、居住する地域の弁護士であっても基本的には問題ないと思いますが、逮捕されて身柄が拘束されてしまった場合、拘禁されるの場所は所轄の警察や拘置所等とされることがほとんどです。そうすると、弁護人についてもらう弁護士を、慣れ親しんだ地元の周辺で探すか、拘束されている場所近辺で探すかという大きな選択を迫られることになります。
この点、個人的には一長一短だと思っています。
刑事事件は、被疑者・被告人が一人でたたかうものではありません。家族や勤務先の人など、被疑者等にゆかりの深い人たちが、示談のためにお金を用意してくれたり、釈放後の身元を引き受けてくれたりすることもあるでしょうし、保釈金の手配なども家族なしには難しいことも少なくないはずです。
他方、仮に被疑事実に争いがある場合、検察官の主張を否定するような事情を探さなければならないことになりますが、そのためには犯罪地近辺での証拠収集が不可欠です。
他にもさまざまな要素があるでしょうが、前者を重視するのであれば地元の、後者に重きを置くのであれば勾留場所付近の弁護士が、それぞれ弁護人に適任な場合が多いのではないかと思います。
もちろん、上記のお話は全てケースバイケースであることはご理解ください。私自身、遠隔地での刑事事件を扱ったことはありますが、現地の検察官や裁判所とのやりとり、被害者との示談交渉など、普段の事件と比べて大きな支障を感じたことはありませんでした。どんな場面でも同じですが、結局は、依頼する弁護士がどれほど親身に動いてくれるかどうかという点が最も重要であるということに変わりはないと思います。