「弁護士さんってあれでしょ、犯罪者の弁護とかする人!」

ええ、非常によく言われる、「弁護士あるある」です。 (そんなときに私たちはいつも、「そればっかりやってるわけちゃうねんけどなぁ」と心の中で思うわけですが。笑)

困ったことに、この問いに対する決まった答えはありません。
被疑者が「俺はやってない!」と言ってるとか、
そもそも被疑事実が犯罪にあたるか疑わしいようなケースでは、
検察官の主張と徹底的に争わなければなりません。
巷にいわれる「有罪率99.9%」との戦いです。
罪を犯していないのに刑罰を科せられたら、
本人としてはたまったもんじゃないですからね。
これはまだ分かりやすい。

しかし、そうではないケース。
被疑者が容疑を全て認めているような場合、
あるいは現行犯逮捕で事実に争いようがないような場合。
弁護士が何のために弁護人として活動するのか、
確かに一般にはあまり理解されにくい部分かもしれません。

「それも弁護士の仕事のひとつや!」と言い切るのもアリですが、
それではあまりに味も素っ気もない。
そんなとき、私はこれまでよく、
「犯人が犯した罪より重くも軽くもない刑に落ち着かせるため」
なんていう答えを返してきました。
当たり障りなく、毒にも薬にもならない、
弁護士の得意とする「詭弁」ってやつですね。笑

弁護士によって考え方はさまざまだとは思いますが、
もちろん、実際はもっときちんとした意義があるわけでして。

刑事事件を担当していると、被疑者被告人の家族と接触する機会も多いです。
弁護活動の一環として情状証人をお願いするなど、
純粋に仕事のためにお話をすることももちろんあります。
しかし、それ以外にも、ご家族からの心情の吐露を受けたり、
被害者の方の状況を慮った苦しい胸の内を語ってくれるなど、
場合によっては、被疑者等以上に事件と深刻に向き合っていたりします。

犯した罪をきちんと償うのはもちろんながら、早く帰ってきてほしい。
早くもう一度、家族で一緒に暮らしたい・・・。

心の底から私に対してそのように語ってくれるご家族を前にすると、
私も思わず目頭が熱くなってしまうことも少なくありません。
このような家族の想いを裁判官に伝える立場にあるのは、弁護人だけ。
刑事弁護活動は、被告人の家族のためのものでもあるといえます。

そして、何よりも重要なのは、家族の気持ちに触れることで、
被告人が犯した罪を本当の意味で悔やみ、反省し、
心の底から悔悟の念と向き合う機会を得られることです。

少年事件などに多いのですが、
本人が規範意識に乏しかったり、ふてくされているようなときは、
「ダメなものはダメ!」と言われても、本人としては、
なかなか反省のきっかけをつかめないようなケースもあります。

私は、故意にせよ過失にせよ、それが犯罪である以上、
本人は過去の自らの行為としっかり向き合う必要があると考えています。
いまひとつ真摯に反省していないようにみえる被疑者に対して、
接見で家族からの手紙を見せたとき、頑なな被疑者の態度が
たちどころに変化の兆しを見せる瞬間は、弁護士なら
誰もが一度は経験したことがあるはずです。

このような場面は刑事弁護のほんの一側面にしか過ぎませんが、
刑事弁護人が、必ずしも犯罪者の味方をするだけの存在でないことはお分かりいただけるのではないでしょうか。
刑事手続の中では、どうしても「検察官=懲らしめる人、弁護人=かばう人」という図式をイメージされる方が多いと思います。
しかしながら、時と場合によっては、本人に事件ときちんと向き合わせ、再犯をしないことを誓わせるのも、弁護人を務める弁護士の大切な役割なのです。