これは、私自身が弁護人をつとめた事件ですが、内容は、車両を運転中の被告人が、二輪車を運転していた被害者と接触し、加療3週間の傷害を負わせたというものです。
 被告人は、略式裁判で受けた20万円の罰金刑に対して不服申し立てを行い、その結果、地裁での公判手続きに移行したもので、この公判手続きの弁護人を私がやりました。

 私は、この公判手続きで、被害者の信号無視による接触事故であることを理由に無罪主張を展開しました。被告人の車両に横から突っ込んできたのに、被告人が罰せられるなんておかしいと感じたからです。

 どういうことかというと、事故態様としては、交差点に進入してきた被告人車両の側面に被害者が運転する二輪車が突っ込んできたというもので、過失割合としては、被害者のほうに落ち度がある事案だったんです。そこで、もし被害車両が四輪車両であれば、被告人がむしろ被害者になっていた可能性が高い旨を弁論で展開し、被害者の過失の大きさをアピールしました。

 加えて、無罪主張については、検察官提出の写真撮影報告書に着眼しました。検察官が証拠として提出している写真撮影報告書には、被告人が走行していた方向から交差点内を撮影した写真が添付してあり、被告人にとって見晴らしが良好だったことが立証趣旨とされていました。
 しかし、よく見ると、その写真が、起立した状態の捜査官によって撮影されたものであることを見抜きました。あまりにも視界が開けていて不自然だったからです。被告人から事故当時見えていた交差点内の風景は、車内の運転席からの風景なので、降車して起立した姿勢から眺めた風景よりもはるかに視界が狭いはずです。そこで、このような観点から当該写真撮影報告書の証明力を弾劾し、被告人には、走行してくる被害車両の確認を怠った過失がない旨の主張を展開したんです。

 その結果、無罪判決までは得られませんでしたが、被害者の信号無視が認定され、罰金額が20万円から10万円に減額されました。