つい出来心で、何らかの目的があって、他人を陥れる目的で・・・警察にうその犯罪事実を申し出る人のニュースを見聞することがあります。このような場合、うその申出を行った人はどうなるのでしょうか。
うその告発を行うと罪を問われる可能性が
他人に刑罰等を受けさせる目的でうその告発、申告などを行った場合には、刑法172条により「虚偽告訴等の罪」に問われる可能性があります。この場合の法定刑は3か月以下10年以下の懲役です。
また、具体的に誰ということを特定せず、「○△駅で痴漢に遭った」とか、「○□町で放火を見た」などの、ありもしない事実を警察に通報するなどした場合、軽犯罪法1条16号ないし32号により拘留または科料に処せられることがあるほか、場合によっては刑法233条の偽計業務妨害罪に問われる可能性もあります。この場合の法定刑は3年以上の懲役または50万円以下の罰金です。
刑法犯に問われる場合はかなり重い罪となる可能性があることがわかっていただけるでしょうか。また、軽犯罪法違反にとどまる場合も犯罪であることは明らかです。
それでは、軽犯罪法違反(以下では「虚偽申告等罪」と呼ぶこととします。)と偽計業務妨害罪の分かれ目はどこになるのでしょうか。どちらに問われるかにより、科せられる刑罰は大きく異なります。
軽犯罪法とは
軽犯罪法は、一般に最低限の道徳律を規律するものといわれますが、他方で、単に道徳を定めたものではなく、いわば小刑法ともいうべき位置づけで、法律学の用語で刑事実体法にあたるものと考えられています。したがって、裁判例は、刑法と「小刑法」が重複するときは、刑法を優先的に適用するとしています。偽計業務妨害罪が成立するときには、虚偽申告等罪は適用されないのです。
偽計業務妨害罪が成立するには
では、警察にうその申出をした場合に偽計業務妨害罪が成立するのはどのような場面でしょうか。
例えば、警察官を脅したり、警察官に暴力を加えてその業務を妨害しようとしたりした場合、公務執行妨害という罪が別に用意されています。他方、脅迫や暴行には至らない程度ではありますが、人の意思を圧迫するに足りる程度の勢力(「威力」といいます。)を示して警察の業務を妨害しようとした場合には、警察にはこれを排除する実力が法的に付与されていますので、威力業務妨害罪は成立しないとされています。
これに対し、偽計業務妨害の手段とされる「偽計」は、相手方がそれと気づかないような方法を内容とするので、警察といえども常にこれに対応できるとは言い切れません。したがって、裁判例においても、警察に対する行為について偽計業務妨害の成立を認めたものがあります。
ただ、私人と異なり、警察には捜査権などの強制力を伴う調査権限が与えられていますので、一般の場合よりも罪が成立するハードルは上がるものと思われます。当該の業務妨害行為が向けられた時又は状況において、警察が「強制力を現に行使できる局面・段階」にあったかどうかを判例や裁判例が問題にしているのは、この辺りを念頭に置いたものでしょう。
まとめ
どのような場合に偽計業務妨害罪が成立し得、どのような場合なら軽犯罪法上の虚偽申出罪等にとどまるかは、いろいろな裁判例を検討し、考えるほかありません。
不幸にしてこのような行為の関係者となられた方は、弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。