弁護人が来るまでは、調書に署名押印はしない。
 刑事手続においてはいろんな専門用語も出てきますし、よくわからんし覚えられん、と思う方は多いのではないでしょうか。右も左もわからん人にまず覚えてほしいと強く言いたい事は、調書の署名押印拒否です。
 調書に署名押印するとどうなるのでしょうか。

 署名押印された調書は、裁判上有利にも不利にも証拠となる可能性があります。多くは被疑者にとって不利に働くものです。物証などの客観的な証拠が不足したりしている場合にも、自白調書をなんとか獲得してその不足を補おうとすることもあります。調書さえ取られてなければ不起訴になったかも・・・なんてことも往々にしてあるのです。多くの場合、当該供述調書は「不利に働く証拠となる」可能性があることをまず認識してください。これは、一見して自己の言い分どおりに書いてあったとしても同じです。供述調書は、被疑者の話した言葉が正確に書かれているとは限らないし、言った通りに書いてあったとしても、そもそも被疑者自身が自己の体験を正確な日本語で表現できていないことも多く、結果的に予期せぬ不利な事実が記載されてしまった、ということが起こりうるのです。

 一方署名押印することのメリットは特にないといっていいでしょう。取調官の機嫌は良くなるかもしれませんが・・・。
 では、署名押印を拒否するとどうなるのでしょうか。

 この場合、取調官が作った調書は、被疑者の署名押印がない以上ただの紙きれとしてシュレッダーで細断されます。裁判上は無価値です。これは、あえて相手側に不用意に武器を渡さない、というところに意味があります。捜査段階における被疑者自身による防御活動として大変有用な手段です。ただ、このような手段をとると、黙秘をした場合もそうですが、取調官によっては、「反省してないのか!」と罵倒してくるかもしれません。「家族が泣いてるぞ、こんなことで心配かけんな」と情に訴えかけてくるかもしれません。このようなことを言われて、言葉につまってしまうかもしれません。
 そんなときは、「弁護人がくるまでは、調書に署名押印はしません」とだけ言ってください。そして、弁護人がきたら、今後の自己の防御方針について話し合いましょう。調書に署名押印するか否かは、その時決めればいいのです。

弁護士 吉田公紀