さて、しばらく前に、コンビニで傘を取られました。店の前の傘立てに傘を入れ、数分買い物をしてさあ出ようとすると、傘がなくなっていました。雨の中濡れて帰るわけにもいかず、仕方がないので、そのコンビニで新しい傘を追加購入する羽目になりました。

 間違えて持って行ったというならともかくですが、故意であるなら、その短時間でためらいなく他人の傘を持っていくという振る舞い、思い切りの良さと見事さに感心します。あまりこういうことが横行してほしくはありませんが。

傘泥棒、持って行ってしまい返さなければ、当然窃盗罪に当たります。ただ、ここで、次のようなケースを考えてみました。

「雨が降りそうなので傘を持ってコンビニに行き、買い物を終えると傘立てに傘がない。外は、買い物中に急なゲリラ豪雨が来たようで、バケツをひっくり返したような土砂降り。仕方なく、その場で新しい傘を購入し、コンビニを出て傘を差して歩き出すと、知らない人が自分の傘を持ってやってきた。どういうことかと問い詰めると、「コンビニから道を挟んだビルに入っている会社に勤めており、買い物のためにコンビニに来たら急に大雨となった。濡れるのは困るので傘立ての傘を拝借し、それを差して会社に戻った。ただ、傘は一時的に借りるだけのつもりだったし、実際会社に戻って自分の傘をとると、すぐにこうして返しに来た。」との弁解。

 しかし、自分は結局新しい傘を買う羽目になり、それもこうして使ってしまったので返品は不可。業腹なので、こいつを窃盗犯として警察に突き出したい。」

 さて、どうでしょうか。

 窃盗罪が成立するためには、判例・通説上、「不法領得の意思」というものが必要とされています。不法領得の意思とは、「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思」と定義されています。単に他人の物と承知で持って行ったらともかく窃盗となるというような、単純な話ではないです。

 上記のケースの傘泥棒、元々傘は返すつもりがあり、持ち出していた時間も相当の短時間、これで「権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と」する意思は認められるでしょうか。判例には、「使用後元の場所に戻すつもりではあったが、そもそも数時間乗り回す意図のもとに、実際他人の車を4時間余り乗り回した」場合に不法領得の意思ありとしたものがありますが(最決昭和55年10月30日)、それと比較しても短時間です。不法領得の意思に欠けるのであれば、窃盗とはできないこととなります。

 一方、外は土砂降りで、場所はコンビニ。傘の持ち主はすぐに買い物を終え、その後は傘を使用することが明らかです。そうすると、ほんの一時の持ち出しのつもりでしかなくとも、持ち主の傘の利用が阻害される場面が生じ得ることは予期できるでしょうから、権利者を排除し他人の物を自己の所有物とする意思がないとは、まんざら解するわけにもいかなさそうです。また、外が土砂降りで傘がなくなっていれば、その場で新しく傘を購入することが多いでしょうし、その場を立ち去ればそのまま取られた傘を失うこととなるでしょう。

 そうすると、「短時間の話だから。」ということだけで、必ずしも不法領得の意思が認められないと断定されるかまではわかりません。窃盗に当たる余地もありそうです。

 このようなケースが実際に裁判で争われたことがあるかは知りません。ただ、取られた側の気持ちとしては腹の立つものです。気持ちとしては、窃盗犯とできないかと思いますね。