1.起訴されてしまった場合の最大の関心事
刑事事件における弁護人の第1の関心事は、いかにして不起訴処分に持ち込むかということになります。現実問題として、刑事裁判は「起訴されれば99.9%有罪」という分厚い壁が立ちはだかっており、起訴処分を避けることが依頼者の利益に直結するからです。
しかし、弁護人の努力が実らず、残念ながら起訴されてしまった場合には、「執行猶予」がつくかどうかが最大の関心事になります(被告人が無罪を主張しているときは別です。)。なぜなら、言い渡された刑に執行猶予が付されると、刑務所に収容されることなく日常生活に舞い戻ることができるからです。
このように、「執行猶予」とは、一定期間その刑の執行を猶予する判決のことをいいますが(これに対して、刑務所に収容されてしまう判決のことを実刑判決といいます。)、執行猶予がつくかどうかは、例えば、犯行態様が悪質なものでなかった、被害が軽微であった、被害弁償がなされた、家族が被告人を監督することを誓約している、被害者が被告人を許している、被告人が深く反省していることが明らか、といったような「情状」を考慮して決められます。
2.どのような場合に執行猶予がつくのか?
しかし、執行猶予を付することができるケースは法律上限定されています。
以下の要件を充たさなければ、「情状」がいくら良くても執行猶予を付すことはできません。
執行猶予を付けることができるのは、以下の二つの場合です。
<通常の執行猶予>刑法25条1項
① 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合で、 ② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合、あるいは、 ③ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合
<再度の執行猶予>刑法25条2項
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがある場合には、刑の執行が猶予されることがあります。ただし、この場合であっても前の執行猶予判決に「保護観察」がついていたときは、再度の執行猶予は許されません。
3.執行猶予の取消し!?
さらに、執行猶予判決を獲得することができたとしても、刑法は、執行猶予が取り消されるケースを規定しています。以下の要件に該当する場合には、①必ず執行猶予が取り消されたり(必要的取消)、②裁判所の判断で執行猶予が取り消されたり(裁量的取消)してしまいます。
<必要的取消>刑法26条
① 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
② 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
③ 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
<裁量的取消>刑法26条の2
① 猶予期間中にさらに罪を犯し、罰金に処せられたとき。
② 保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せずその情状が重いとき。
③ 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき。
4.無事、執行猶予期間を満了するとどうなるか?
先ほど説明したように、執行猶予判決が言い渡されると、刑の執行が猶予される結果、刑務所に収容されなくて済みますが、刑の言渡しがなされたことには変わりありません。よって、例えば、一定の職業の資格制限の事由となる場合があります。
しかし、執行猶予を取消されることなく、無事、執行猶予期間が満了した場合には、刑の言渡しは効力を失います。従って、刑の言渡しを受けなかったことになるので、資格制限についていえば、その職業に就くことができるようになります。
弁護士 細田大貴