通信教育大手の会社が起こした、大規模な個人情報漏洩事件。

最近までニュースなどで話題になっていましたね。

この件は、従業員が不正競争防止法違反で逮捕されるという事態に発展しました。

報道等によると、当該従業員は、自身の私用スマホに会社のデータを落とし込めることに気付き、犯行に手を染めてしまったということのようです。

こんにち、ビジネスで扱う情報には、機密性の高いものが少なくありません。

私たち弁護士も、クライアントの極めてセンシティブな情報を扱うわけですから、 当然ながら事務所全体として、厳しく情報管理を行っています。

多くの会社で、機密情報の取扱方法には神経質になっているというのが実情でしょう。

ところで、会社の機密情報の持ち出し自体は、何らかの犯罪にあたるのでしょうか。
この点、実は古くから刑法学で議論されてきた難しい問題を孕んでいるのです。

会社の備品を私的な用途のために無断で持ち出す行為は、窃盗罪(刑法235条)に該当します。

機密情報が記載されたファイルなどを社外に持ち出すと、窃盗罪として、10年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金を科せられる可能性があります。

パソコンに保存されているデータをプリントアウトして持ち出したとしても、「コピー用紙の窃盗」として扱うことはできると考えられていますし、紙を自分で持ち込んでプリントしたとしても、厳密に考えればトナーの窃盗・・・のように考えることもできそうです。

データそのものの持ち出しは、図利加害目的(被害者の損害の裏返しとして自分や他人の利益を図る目的)が認定されれば、
背任罪で処断されるケースもあり得ると考えられ、古い裁判例ではそのように判断したものもあります(東京地裁昭和60年3月6日判決)。

ちなみに背任罪の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています(刑法247条)。

機密情報が図面やプログラムなど著作物性を有するものであった場合は、営利目的での著作権侵害として、著作権法違反の罪に問われるおそれもあります(著作権法119条2項。10年以下の懲役または1000万円以下の罰金。)。

これら個別具体的な行為態様に照らして犯罪を構成する可能性があるほか、今回の事件のように、不正競争防止法違反に問われるケースも最近は増えてきています。

不正競争防止法による情報剽窃の処罰規定は、もともとは産業スパイ等に対応する目的で制定されたものでした。

今回の事案は、産業スパイのような高尚な目的があったわけではなく、あくまで個人情報を名簿業者に売って金にするためだけの犯行であったようですが、
いかなる動機であれ、会社の情報を勝手に持ち出すことが許されるはずもありません。

ちなみに不正競争防止法違反で今回の事案が起訴された場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

会社で仕事をしていれば、機密情報に触れる機会がある方も少なくないと思います。

その扱いは会社内で厳密に決められていることがほとんどだと思いますが、
恣意的に持ち出したり、外部の人間に漏らしたりすることが、取り返しのつかない重大な犯罪にあたる可能性があることは十分に認識しておく必要があると思います。