1 はじめに
今回は、運行供用者責任の「他人」という要件について検討していきたいと思います。
自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」といいます。)3条本文は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定しています。つまり、運行供用者は、「他人」に対して、損賠賠償責任を負うことになります。
この「他人」性に関しては、興味深い判例があるので、以下、判例を踏まえ、述べていきたいと思います。
2 妻は「他人」か
(1)事案
夫甲が所有し、運転する車に、妻Xが同乗していましたが、車は崖から転落し、妻Xが傷害を負いました。そこで、妻Xは、自賠責保険会社Yに対し、自賠法16条の被害者請求に基づき、損害の賠償を請求しました。
(2)判例(最判昭47.5.30)は、結論として、妻Xが「他人」に当たることを認めました。
その根拠として、判例は、①車は、夫甲が自己の通勤等に使用するためその名をもって購入し、ガソリン代、修理費等の維持費もすべて負担していたこと、②車の運転はもっぱら夫甲がこれにあたり、妻X個人の用事のために使用したことはなく、妻Xがドライブ等のために車に同乗することもまれであること、③妻Xは、夫甲の運転を補助するための行為を命ぜられたことがなかったこと等を挙げています。
(3)この判例の根拠からすると、具体的な事実関係において、妻も車を使用し、ガソリン代の一部を負担していた等の事実があれば、妻は、「他人」に当たらないといえる余地があります。
3 クレーン車の玉掛け作業に従事していた者は、「他人」か
(1)事案
Xが自ら運転してきたトラックに積載された鋼管くいの荷下ろし作業中に、鋼管くい一本に玉掛けを行い、乙がクレーン車を運転して鋼管くいをつり上げました。ところが、鋼管くいが落下し、Xに当たり、Xが死亡しました。
(2)この事案につき、判例(最判平11.7.16)は、①本件トラックの運転者Xは、乙が行う荷下ろし作業について、指示や監視をすべき立場になかったこと、②Xの作業が鋼管くい落下の原因となっているものではないこと等を根拠に、Xが、「他人」に含まれるとしました。
4 まとめ
「他人」という要件は、多分に解釈の余地があるので、「他人」性をめぐる判例や裁判例は多いです。その判断においては、車の運行に対する支配性といった個別・具体的な要素が考慮されています。
そのため、事案によっては、自賠責保険会社が「他人」性を争ってくる場合もあるでしょう。その場合、判例や裁判例のリサーチや分析に精通している弁護士を通じて自賠責保険会社と交渉するが良いと思います。
弁護士 大河内由紀