皆さんこんにちは。

 今回は、裁判例の紹介をしたいと思います。紹介する裁判例は神戸地裁平成23年9月7日(自保ジャーナル1861号)です。

 この事件は、原告は交通事故当時41歳の男子公務員のバス運転士で、交通事故により腰部打撲等の傷害を負い、裁判所に後遺障害等級12級に該当すると認められた事案です。その上で、裁判所で争われたこととして逸失利益が問題になりました。

 原告は、本件事故約2ヶ月前、事務職員への選考申込を提出し、その半年後事務職員に転任となった結果、月額約19万円の時間外手当の減収となっていました。つまり、交通事故後、原告の収入は減収しているが、その減収は事故前に事務職員への選考申込をして事務職員に転任となったためであり、交通事故が原因となって減収があったことが認定しにくい事案でした。

 このような事実を加味して裁判所は、症状固定時から10年間は、年収384万2651円を基礎収入として、5%の労働能力の喪失があったと認める。ただし、症状固定時から約6年間は減収があったことを認めるに足りる証拠はないから、6年間については、逸失利益は発生しないと認定しました。

 以前のブログの記事にも書いたように、逸失利益とは、後遺症がなければ得られたはずの収入から、後遺症が残った状態での収入を差し引いた差額のことを言うと考えられています。そのため、交通事故前後で収入の減少が認められるが、その減収が交通事故以外の原因と明確に言える場合には、逸失利益が認められないとの結論を招いてしまいそうです。しかし、逸失利益が何ら認められないとの結論もまた不当であるといえます。

 本件事案でも、裁判所は、症状固定時に42歳である原告においては、後遺障害の影響によって、将来の転職の際における種々の不利益が生じることも予測され、また、原告が前記後遺障害を持ちつつ従前と異なる就労をする上では今後とも相当の負担を要するものと伺われるということを認定した上で、逸失利益を一定程度認めています。このような裁判例を参考に適正な逸失利益を求めるようにしたいですね。

 それでは、また。

弁護士 福永聡