1 はじめに
こんにちは、弁護士の伊藤です。
今回は、被害者の逸失利益等将来現実化するべき利益等(以下「逸失利益等」といいます。)の算定における中間利息の控除について、みていきたいと思います。
2 中間利息の控除
中間利息の控除とは、逸失利益等に関する損害賠償額を算定するのにあたって、将来これら利益等を得たであろう時までの利息相当額(中間利息)を控除することをいいます。
中間利息を控除する趣旨は、被害者が逸失利益等を不法行為時に生じた損害として一時金で取得することで、被害者において一時金運用利息分を利得することになる不都合を回避という点にあり、これは損害の公平な分担ないし損害の填補という損害賠償制度の本質に由来します。
3 控除すべき中間利息の割合
⑴ 実務運用
裁判所[1]は、法的安定及び統一的処理の必要性を理由として、年利5%の民事法定利率(民法404条)によらなければならないとしています。
これを受けて、実務では、控除される中間利息は年利5%とする運用がなされています。
⑵ 実務運用に対する問題意識
ところで、周知のとおり、民事法定利率は実勢金利[2]と著しく乖離しています。
そもそも、「交通事故による逸失利益を現在価額に換算する上で中間利息を控除することが許されるのは、将来にわたる分割払と比べて不足を生じないだけの経済的利益が一般的に肯定されるから」[3]であるはずです。
そうであれば、「中間利息の控除割合は裁判時の実質金利(名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率との差)とすべき」[4]と、個人的には考えているところです。
4 中間利息控除の方法
⑴ 中間利息控除の方法
中間利息控除の主な方式としては、ライプニッツ方式とホフマン方式があります。
ア ライプニッツ方式
ライプニッツ方式とは、各期ごとに受け取る利息を複利で運用することを前提に中間利息を控除する方法をいいます。
つまり、後述するホフマン方式に比べて、控除される額は大きく(賠償額は小さく)なります。
イ ホフマン方式
ホフマン方式とは、単利で運用することを前提に控除する方法をいいます。
つまり、前述のライプニッツ方式に比べて、控除される額は小さく(賠償額は大きく)なります。
⑵ 実務における問題意識
ライプニッツ方式とホフマン方式のいずれの方式が採用されるかによって、控除される金額に大きな差が生じます。
例えば、27歳で年収500万円の独身男性が死亡した場合、逸失利益を算定すると損害賠償額1000万円以上の差額が生じるという試算[5]があるくらいです。
したがって、いずれの方式が採用されるかは、当事者にとって切実な問題となります。
⑶ 実務運用
東京・大阪・名古屋の各地裁交通事故専門部から、特段の事情のない限り、ライプニッツ方式を採用すべきとの共同提言[6]が出されて以降、多くの裁判例においてライプニッツ方式が採用されています。
もっとも、裁判所[7]は、ライプニッツ方式及びホフマン方式のいずれも不合理なものとはいえないとし、事案に応じた使い分けを許容しています。
そこで、当事者としては、将来の不確定な事情を前提としながら、できうる限り蓋然性のある額を算出するという中間利息控除の本質に即して、適切と考えられる方法の選択を求めていくべきこととなります。
5 結び
私が本ブログを担当するのは、これが最後になります。これまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
[1] 最判平成17年6月14日・民集59巻5号983頁。
[2] 日本銀行金融機構局「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等について」(2012年5月23日午前8時50分公表)によれば、普通預金の平均年利率は0.020%。
[3] 札幌高判平成16年7月16日・金融・商事判例1225号16頁(最判平成17年6月14日・民集59巻5号983頁の原審)。
[4] 札幌高判平成16年7月16日・金融・商事判例1225号16頁。
[5] 廣田有紀「交通事故における中間利息控除方式」(財)交通事故紛争処理センター創立30周年記念論文集『交通事故損害賠償の新潮流』291頁。
[6] 「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」判タ1014号62頁。
[7] 最判平成22年1月26日・判タ1321号86頁。
弁護士 伊藤蔵人