皆さんこんにちは。

 今回は、裁判例の紹介をしたいと思います。紹介する裁判例は名古屋地裁平成12年10月18日(自保ジャーナル1387号)です。

 この事件は、原告は交通事故当時21歳の男子大学生で、交通事故により高次脳機能障害等の後遺障害を残し、裁判所から自賠責5級2号の後遺障害が認められた事案です。そして、原告は後遺障害の慰謝料として1250万円が認められました。そして、この事案で特徴的なのは、上記1250万円の後遺症慰謝料とは別に、原告の両親に固有の慰謝料が認められるかが問題になりました。

 民法711条は、他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならないと規定しています。また判例は、被害者の生命侵害にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けたときも近親者は固有の慰謝料を請求できると判断しています。

 そして、この事件で裁判所は、原告の知的能力は著しく減退し、原告はこれを十分に自覚しておらず、人格・性格的にも従前の原告とは異なる面が表面化していることが認められ、これに照らすと、原告父及び原告母ら両親としては従前の原告と現実の事故後の同人との落差に大きな衝撃を受けると共に原告の将来に大きな不安を抱いていることが認められ、その精神的損害の程度は原告の不慮の死亡に照らしても決して小さいとはいえないことが明らかであると認めました。その上で、原告父及び原告母についても原告とは別個に固有の精神的損害を認めるのが相当であり、その額は、一人当たり300万円をもって相当と認めると判断しました。

 交通事故により重大な傷害を受けた場合は、被害者のみならず、被害者の近親者も大きな精神的な損害を受けることは想像に難くないでしょう。そのような場合は、被害者の慰謝のみだけではなく、被害者の近親者に固有の慰謝料が認められないかをこのような裁判例を検討して、適正な損害の賠償を求めるようにしたいですね。

 それでは、また。

弁護士 福永聡