無償同乗(好意同乗)とは、一般に、好意または無償で他人を自動車に同乗させることをいいますが、その際に事故が発生した場合、被害者(同乗者)の賠償額が減額されるかどうかという問題があります。

 要するに、ただで(好意で)便乗させてもらっているので、事故の責任をある程度は共有すべきとの考え方で、損害賠償額も減額してよいのではないかという問題です。

 この問題を取り扱った最近の裁判例(名古屋地裁平成16年10月6日判決)がありますので、以下で紹介します。

 事案は、以下のようなものです。

 原告Xは、中学校同窓会の一次会で被告Yや他の友人と飲酒をした後、被告Yの運転する車に他の友人と共に同乗して二次会会場に移動中、被告Yの前方不注視や飲酒の影響等により、車がカーブを曲がり切れず信号機に衝突し、原告Xが損害を被ったことから、被告Yに対して、損害賠償請求訴訟を提起しました。

 裁判所は、好意同乗により原告の被告に対する損害賠償額を減額すべきか否かの判断基準として、

「自動車の運転者が、他人を同乗させて走行することは日常的に行われていることを考慮すれば、好意同乗というだけで、同乗者に発生した損害を減額することは相当でなく、同乗者が事故車両の運行をある程度支配したり、事故車両の運転車の危険な運転状態を容認又は危険な運転を助長、誘発した等、事故の発生について同乗者に何らかの帰責事由がある場合に初めて加害者と被害者の損害の衡平な分担を図るという趣旨から、同乗者の賠償額を減額することが相当である

としました。

 その上で、本件事故の原因は、被告の前方不注視のほか、飲酒による注意力の散漫にもあると考えられ、被告は、このことを認識していたと考えられるが、かかる程度の事情では、本件の事故発生につき、同乗者である原告に何らかの帰責事由があるとまでは認められないから、信義則に基づき、損害賠償額を減額しなければならないとは解されないとしました。

 一時代前までは、好意同乗という事情だけで、原告(同乗者)の被告(運転者)に対する請求額を減額する裁判例も比較的多かったのですが、最近は、この事情だけでは減額を認めず、原告(同乗者)側に何らかの「帰責事由」がある場合に限り減額するという裁判例が増えています。

 「帰責事由」が認められる例としては、例えば、同乗者が運転者と一緒に飲酒し、その後ドライブに出かけ、運転者が飲酒していることを認識しながら、ドライブ中も運転者が缶ビールを飲んだりしているのに、飲酒や運転を止めるよう促すといったことをしていない場合等が挙げられます。

 ただし、保険会社の中には、特に「帰責事由」がないにもかかわらず、「好意同乗」ということだけで、被害者(同乗者)の請求額の減額を主張してくることがあります。

 上記のとおり、最近は、「好意同乗」という事情があるだけでは、減額を認めないのが裁判実務の傾向ですので、保険会社の対応に納得がいかないという方は、一度弁護士に相談してみると良いと思います。